表題番号:2009B-342 日付:2010/03/30
研究課題空間非一様な双安定型反応拡散方程式に現れる遷移層を持つ解のパターンに関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 高等学院 教諭 浦野 道雄
研究成果概要
 本研究では, 空間非一様性を伴う双安定型反応拡散方程式
$$u_t=\varepsilon^2 (d(x)^2u_x)_x+h(x)^2 u(1-u)(u-1/2), \quad 00$$
を斉次Neumann境界条件下で取り扱った. ここで$\varepsilon$は正のパラメータ, $d$, $h$は$C^2$-級の正値関数を表す.

 一般に拡散は状態を均一化する効果を表すが, 反応拡散方程式においては, 拡散項と反応項の相互作用により, 空間非一様化が促進されることがある. このような現象は「パターン形成」と呼ばれており, 本研究で取り扱う方程式もパターン形成が観測されるようなモデルのひとつである. この方程式の特徴は空間非一様性をもたらす関数が拡散項と反応項の双方に含まれる点である. 空間非一様性は, 観測される現象が不均質な媒質中におけるものであることを表す. また, 反応項は2つの安定な状態を持つ現象を表現する際によく見られる, 双安定性という性質を持つ. これらの性質の相互作用により, この方程式は非常に豊かな解構造を持ち, 特に$\varepsilon$が十分小さいとき, 遷移層と呼ばれる, 空間的に非常に狭い範囲で解の値が劇的に変化する層を持つ解が現れる. このような遷移層は, 他の遷移層からある程度の距離をおいて単独で現れる場合もあれば, 複数の遷移層が束状になってある点の近傍に現れることもある. 前者はsingle-layer, 後者はmulti-layerと呼ばれている.

 パターン形成の観点からすると, 遷移層が現れる位置を特定することやその多重性を考察することが非常に重要な課題である. 本研究では遷移層を持つ定常解を対象とし, 遷移層の現れる位置や多重性を空間非一様性を用いて特徴付けすることに成功した.
具体的には, $\varphi(x):=d(x)h(x)$と定義するとき, 遷移層の現れる位置は$\varphi$のクリティカルポイントの近傍に限られることが示された. さらに, multi-layerの現れる場所は, $\varphi$が極大となる点の近傍に限られることも示された.

 これらの結果は, 論文誌 Funkcial. Ekvac. や GAKUTO Internat. Ser. Math. Sci. Appl. への掲載が決定している.