表題番号:2009B-337 日付:2010/04/11
研究課題ヤコビ形式上の算術的作用素の跡公式・跡関係式の構成とそれを用いた数学教材研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 高等学院 教諭 坂田 裕
(連携研究者) Siegen University 教授 N.P.Skoruppa
研究成果概要
2009年度当初からの研究によって、素数レベルで指数1を持つヤコビ形式上に作用する算術的作用素の跡公式と、楕円保型形式上に作用する作用素のそれとの間の関係式(跡関係式)を、スコルッパ-ザギヤの理論を拡張した上で用いることにより、詳細に計算・記述することが出来た。また、その結果を用いて、ある条件をみたす素数レベルで指数1のヤコビ形式の空間と素数指数を持つレベル1のヤコビ新形式の空間が同型であることを示した。さらに、その同型性を用いて、この条件を満たす(素数レベルで指数1の)ヤコビ形式のレベルと指数を入れ替える持ち上げ写像を具体的に構成することに成功した。次に、素数レベルで素数指数を持つ場合のヤコビ形式上に作用する作用素の跡公式についてもある条件下でほぼ完全に記述して、レベルと指数を入れ替える写像がこの様な場合にも(ある条件下に限り)存在することを予想した(ただ、写像の具体的構成までには未だ踏み込めていない)。さらに、Weil表現と有限モジュラー群の表現論を駆使することで、ある条件を満たすスクエアーフリーレベルで指数1を持つヤコビ形式の空間と、スクエアーフリー指数でレベル1を持つヤコビ新形式の空間が同型になることを示すことにも成功した。また、この結果を基にして、上記で構成した持ち上げ写像をこの場合に一般化することも出来た。なお、この(与えることの出来た)同型性と写像の数論的性質から、これらの空間上に作用する算術的作用素の跡公式間の関係式を間接的に導くことが出来ることについても注意されたい。他方、こうして与えられた跡関係式の各共役類の寄与を個々に観察することによって、これら各項に現れる数々の数論関数の性質を幾つか見つけることが出来た。これらの中には既知なものも多く含まれているが、複数の数論関数の諸性質を(跡公式から)体系的に見る視点は新しいものといえるのではなかろうか。なお、この結果については数学教材としてまとめることを前提に、現在整理しているところである。