表題番号:2009B-320 日付:2010/03/29
研究課題「マキャベリ的知能」と紛争の実証的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 教授 森川 友義
研究成果概要
『マキャベリ的知能』(または「政治脳」、「社会脳」)とは、人間関係において自己利益を追求し、その結果生存競争に勝つための能力であり、例えば自分を実力以上に見せ相手を威嚇する能力(及びその威嚇を見抜く能力)、嘘をつく能力(及びその嘘を見抜く能力、更には嘘を見抜かれた後再び上手な嘘をつく能力)、誰を信頼すべきかという選択・洞察力(及びその信頼又は不信を予見し行動をとる能力)等である。本来ならば、マキャベリ的知能と自己犠牲とは相容れない関係にあると考えられるものであるが、自身が行ったコンピュータ・シミュレーションによる研究結果から、両者がむしろ補完しあう関係であることが分かっている。つまりマキャベリ的知能が発達する過程において、相手のうそを見抜く能力がうそをつく能力を上回るという条件等が整えば、人間は血縁関係がない相手に対しても、自己犠牲が可能な動物であることが確かめられた。これは、囚人のジレンマあるいは公共財といった状況において、協力関係を築きあうことができることを示唆している点で重要である。
本研究では、シミュレーションといったバーチャルなデータによる検証から、実際の紛争にかかわるデータに基づいて、人間はどこまで利他的になれるかについて検討することを主な目的とし、1945年において神風特攻隊員が残した遺書、手紙、詩歌等の6百あまりのコンテンツ分析を行ったところ、確かに危機的状況では集団のために自分の生命を犠牲にできる可能性が高いことを示唆する仮説が提示できることが分かった。昨今、自爆テロを含むテロリズムといった形で自分の生命を犠牲にして自分の所属するグループを守ろうとする行為が、スリランカ、イラク、パレスチナ等世界各地で散見されるところ、自分の生命を犠牲にして他人を守ろうとする行為は、自分の遺伝子を共有する人々の集団が絶滅される恐れがある場合に、自分の生命を引き替えにその消滅を阻止することができる分岐点において、生じるとの仮説を提示した。

他方、マキャベリ的知能の研究は「進化政治学」の範疇に入るものであるが、「進化政治学」という新しい手法を用いた研究が少ないことから、一般読者への啓蒙の意味を含めて、かかる手法からわが国の選挙を見る視座を提供した。