表題番号:2009B-316 日付:2010/04/05
研究課題初期フォークナー詩作品の文化的コンテキスト
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 教授 大和田 英子
研究成果概要
 従来、フォークナーの初期詩作品については、その作品内容の解釈が中心であり、詩集としてまとめられた形での解釈が通常行われている。だが、フィル・ストーンの後援・助言を得てフォークナーが作品を応募した雑誌では、主として政治的言説や1920年代当時の国際
関係の分析に関する論文などが多数を占めていた。つまりフォークナーの初期詩はそれのみ独立させて読むならば、古典的ギリシャ世界を彷彿とさせ、審美的な言語の美しさを求め、青春の喜び、苦しみを謳っているものがほとんどなのであるが、そうした詩が初出した場面は政治的にも歴史的にも激しく揺れ動く世界に取り囲まれていたことになる。本年度はこうしたフォークナーの詩の初出の場面を詳細に取り上げ、分類作業を行うことに徹した。
 フォークナーの作品では「生」と「死」、「静寂」と「喧噪」などのように対立し、異質であるものの対比をその詩的イメージに封じ込める傾向がみられ、それが後の短編作品および長編作品に用いられる表現として昇華されていく。本研究では、初期詩の作成された環境と発表された雑誌における国際状況の変遷がその昇華の過程にまで踏み込んで作家の歴史的無意識を形成していたことを立証したいと考えている。第一次世界大戦と第二次世界大戦のあいだで、断片化していく世界を前に詩人の感応力が吸収した歴史の動きが、いかに形象化されていくのか、まずは短編においてさらに掘り下げたい。