表題番号:2009B-297 日付:2010/04/04
研究課題層構造を成す対象物に対するヒト皮膚感覚の硬さ弁別特性の評価とその応用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 教授 藤本 浩志
研究成果概要
 本研究室では,硬さ(ヤング率)の異なる弾性対象物(直径50mm,厚さ30mmの円柱形状)を多数製作し,それらを呈示刺激として,指腹で押し込んだ際の硬さ感覚特性を定量的に評価してきた.これらの成果を踏まえ,新たに,異なるヤング率の対象物を重ねた硬軟二層構造体の場合の硬さ感覚特性を系列カテゴリ法により定量的に評価することを目的とした.
 呈示刺激は,7種類のヤング率の弾性体を4種類の厚さ(各々5,10,15,25mm)で作製し,上層5mm下層25mm(厚さ比1:5),あるいは上層10mm下層20mm(厚さ比1:2)になるよう組み合わせ呈示した.これを被験者は呈示刺激の中心を一度だけ人差し指の指腹で押し込み,その際に感じたままの硬さの感覚に相当するカテゴリ(「極端に軟らかい」「かなり軟らかい」「やや軟らかい」「どちらでもない」「やや硬い」「かなり硬い」「極端に硬い」の7 段階)で硬さ感覚を回答した.なお,本研究は本学研究倫理審査委員会の承認を得て行った.
 各刺激に対する硬さ感覚に相当するカテゴリの割合を反応率とし,それを基に硬さ感覚の尺度値を導出した.実験の結果,上層の厚さが薄い場合には,上層のヤング率に対して下層のヤング率の違いが硬さ感覚特性に及ぼす影響が強くなることがわかった.特に上層の厚さが薄い5mmの場合には,上層のヤング率が異なっても同様の硬さ感覚特性の傾向が見られた.上層の厚さ10mmの場合には,下層のヤング率が硬さ感覚に及ぼす影響が限定的になり,上層が硬くも軟らかくも無いヤング率の場合には,下層のヤング率の影響を受けることがわかった.上層の厚さが15mm(厚さ比1:1)の場合には更に限定的で,上層のヤング率が7種類の内の中央の場合のみにおいて顕著に下層のヤング率の影響を受けることがわかった.以上の結果より,上層の厚さによらず下層のヤング率が硬さ感覚特性により強く影響を及ぼすような,上層のヤング率の範囲が存在することが示された.これは,この付近の硬さが指先で硬さを弁別しやすい領域にあるためだと考えられる.