表題番号:2009B-296 日付:2010/04/12
研究課題生物時計と体温概日リズム形成の間のシグナルパスウエイの解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 教授 永島 計
研究成果概要
【目的】本研究は1)絶食が体温調節反応に及ぼす影響を暗期(活動期)と明期(非活動期)に分けて解析し,体温調節にかかわる脳視床下部での神経核、生物リズムの形成にかかわっていると考えられている時計遺伝子の一つであるClockとの関与を明らかにすること、2)低体温を引き起こすシグナルとしてグレリンの関与を調べた.【方法】実験1:マウスの体温と活動量を連続測定し,2日間の絶食を行った.絶食開始時刻は午前9時もしくは午後9時とし,各々この時間の47時間後,午前8時(明期)と午後8時(暗期)に,20ºCの寒冷暴露を行った.脳のcFosタンパクの免疫組織化学染色を行った.時計遺伝子Clockの変異マウスを用いて,同様の実験を行った.実験2:野生型マウスにグレリン(8 nmol)または生食を午前8時(明期)と午後8時(暗期)投与し、10℃の寒冷暴露を行った.【結果】実験1:絶食明期寒冷暴露時には,体温は30分目以降低下したが酸素摂取量に変化はなかった.絶食暗期寒冷暴露時には,130分目以降低下し,酸素摂取量は増加した.体温の低下は明期に暗期と比較して大きく,酸素摂取量の増加は暗期が明期に大きかった.視床下部のcFos免疫陽性細胞数は,内側視索前野および室傍核で暗期寒冷暴露に増加した.視交叉上核では,絶食、寒冷暴露によりcFosは増加した.Clock変異マウスでは,明期と暗期の間に差はみられなかった.実験2:グレリンを投与したマウスにおいて、明期の寒冷暴露により体温は低下した.酸素摂取量は低かった.暗期では、グレリン投与後の寒冷暴露により体温は低下せず酸素摂取量は増加した.cFos-は視交叉上核において明期にグレリン投与により増加した.【考察】1.摂食条件は体温調節に大きく関わっており,絶食時には寒冷時の体温調節反応を時間特異的に抑制することが明らかになった.時間特異的に抑制するメカニズムに時計遺伝子Clockが関与していることが明らかになった. 2.絶食時の低体温は調節された現象と考えられるが、絶食に伴い増加するグレリンは絶食時の時間特異的な体温調節に関与していると考えられる。