表題番号:2009B-274 日付:2013/05/15
研究課題認知症行動障害の治療・介入モデルの解析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 教授 加瀬 裕子
研究成果概要
【目的】 認知症にともなう行動・心理症状(BPSD)は,介護者の心身に多大な負担がかかるだけでなく,本人自身も心身の不安定な状態に苦痛を感じている.BPSDのケアマネジメントは,介護者・認知症高齢者支援の重要な柱である.本報告は,介護現場におけるBPSDへの対応事例を収集・分析し,BPSDの改善に有効な介入方策を探索することが目的である.
【方法】 介護現場におけるBPSDの介入実態を事例収集するために,調査票を作成した.調査項目は,要介護度・自立度・ADL・BPSDの介入前後の状況,介入の内容などである.BPSD・介入項目は,共同研究者の収集した認知症高齢者の介入事例の検討および認知症高齢者のケアマネジメント・モデルに関する先行研究を参考にした.実態調査は,共同研究者の関わりのある介護事業者(在宅・施設)への郵送配布・回収方式で行った.事例は,過去5年間の介入に限定した.調査は,平成19年3月から1年かけて実施した.回収した調査票は,介入前後の要介護度・自立度・ADL・BPSDを比較し,項目ごとに「改善」・「維持」・「悪化」の順序尺度を作成した.また,認知症症状の改善の指標として,認知症高齢者の日常生活自立度判定基準(厚生労働省)を使用した.Goodman & Kruskal’s γを用いて.認知症症状とADL・BPSD・介入の各項目の相関を検定した.統計量の算出・検定には,SPSS17を利用した.
【結果】 約40事業者から204件の事例を収集した.[属性]性別は男75%・女25%,年齢は80歳代51%・90歳代22%・70歳代21%,介入場所は自宅35%・特養と有老21%・老健15%,認知症の原因疾患はAD45%・老人性37%・VaD17%,介入期間の平均値1.3年・中央値1.0年であった.[介護度等]認知症高齢者の日常生活自立度判定基準と有意な相関が見られたのは,要介護度γ=.317,障害高齢者の日常生活自立度γ=.665,排泄γ=.457,服薬γ=.430,歩行γ=.550であった.[BPSD]同様に,多動γ=.350,作話γ=.391,常同的な発話γ=.359,大声γ=.445,無断外出γ=.333,感情失禁γ=.447,徘徊γ=.351であった.[介入]同様に,便秘症状の改善γ=.435,本人のペースに合った生活リズムγ=.434,場所等の手がかりの提供γ=.618,なじみのある環境の提供γ=-.367,地域活動への参加γ=.597,家族・介護者の身体疲労への対応γ=-.730であった.
【結論】 認知症高齢者の心身の環境の調整が、BPSDのケアマネジメントとして有効であるとの示唆が得られた。便秘症状・生活リズム・場所情報・地域活動等の介入要因が、言動・感情の興奮状態を低減させる可能性がある。