表題番号:2009B-224 日付:2010/03/15
研究課題高密度キセノン検出器の放射線物性的研究  -エネルギー分解能を中心として-
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 長谷部 信行
研究成果概要
暗黒物質探査・二重ベータ崩壊探索・MeVγ線イメージングなどの最先端の研究で用いられる放射線検出器の媒質としてキセノンが注目されている。一方で、キセノンの基礎物性には未解明な点が多く、それらを把握することは検出器開発の基礎として極めて重要である。特に、気体から液体にかけてエネルギー分解能が密度と共に急激に変化することが知られており、そのメカニズムの解明は急務である。
本年度は、気体から液体にかけてのエネルギー分解能の変化を解明するため、影響を及ぼす一つの要因である高密度状態でのシンチレーションの消光作用を重点的に研究した。この消光作用は、0.15 g/cm3以上の気体キセノンにて発現することが分かっていたが、どのような消光過程が働いているのかは明らかではなく、エネルギー分解能に与える影響についてほとんど研究されてこなかった。そこで、消光率の密度依存性を取得し、消光過程のモデルに対して比較・検討することを目指し、実験を実施した。再結合発光過程における電子イオン対からシンチレーション光子への変換効率(量子効率)が再結合発光過程の消光率と等しく、シンチレーション光子数と電離電子数の電場変化からこの量子効率が測定可能であることに着目した。過去に開発を行った実験装置を用いて、電場を変化させ、5.49MeVのアルファ線によって生成されるシンチレーション光子数と電離電子数の同時測定を行い、0.1~0.6 g/cm3の広範囲な密度領域にわたり量子効率を測定した。
 実験結果は、0.15 g/cm3までの密度領域において、量子効率がほぼ100%であり、それ以上の密度で減少する傾向を示し、消光作用が働いていることをはっきりと示していた。さらに、キセノンのクエンチング過程として知られる励起原子同士の衝突、励起分子同士の衝突を仮定し、量子効率の密度依存性にこれらのモデルをフィッティングしたところ、励起分子同士の衝突で密度依存性をよく説明することができた。ただし、このフィッティング結果から予想される液体キセノン(3 g/cm3)のクエンチング効率は、実験結果と大幅な違いがあることがわかった。今後、より高密度で、より精度の良い量子効率の測定を行うことで、気体から液体にかけて消光効率がどのように変化するのかを明らかにし、エネルギー分解能の密度変化に解釈を加えたいと考えている。