表題番号:2009B-218 日付:2013/05/06
研究課題原子配列制御エピタキシーによる半導体の新機能創出
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 堀越 佳治
(連携研究者) 理工学術院 助教 西永慈郎
(連携研究者) 高等研究所 准教授 河原塚篤
(連携研究者) 材料技術研究所 客員研究員 竹内登志男
研究成果概要
これまで単一光子生成や単一電子トランジスター等の開発に不可欠な良く制御された量子ドットの実現は困難であった。その理由は、ゼロ次元量子ドットに必要な微細構造を実現する方法として、自己組織化型のドット形成がほとんど唯一の方法であったが、この方法ではドットの密度や分布の制御が困難であり、かつ最も重要な点はである個々のドット位置の制御が不可能だったからである。事実自己組織化によって実現するドットは10nm径程度の微細化が実現しており、量子ドットレーザーの実現に大いに貢献した。しかしレーザーへの応用は多数のドットの集団的な特性を利用しているが、上述の応用のように個々の孤立したドットの機能が要求されるデバイスへの応用は不可能であった。
本研究では、このような問題を解決し自在に微細構造を形成可能な技術として、「原子配列制御エピタキシー」を開発し、これによって半導体に新機能を付与する技術の確立を目指した。具体的には我々がこれまでに築き上げた精密エピタキシー技術をさらに進化させることにより、位置と形状及びサイズが良く制御された量子ドット構造を実現することである。本研究では、位置と形状を制御する方法として、MEE法による選択エピタキシャル成長を応用した。この方法では、GaAs基板上に形成されたSiO2膜に電子ビームリソグラフィにより微細パターンを形成し、その上に選択エピタキシャル成長を行った。しかしながら電子ビームリソグラフィによって実現できる微細構造のサイズは、充分な制御性が得られる範囲としては100nm 程度であり、量子ドットとして要求される10nm以下のサイズの実現は不可能であった。そこで二段構えの成長方法を取った。まず第1段としてGaAs (001) 表面のSiO2 薄膜上に100nm~200nmサイズの窓(穴)を形成し、その部分に選択エピタキシャル成長によってGaAs微細構造の形成を行った。MEEの成長条件を制御することにより、微細構造の形状を4つの斜面を{110} ファセットで覆われたピラミッド構造にすることができる。この場合成長時間を制御することにより、頂部に10~50nmの大きさの微小(001) 面をもつ構造を形成することができる。このような構造の表面を選択エピタキシャル成長の新たな基板とし、第2段のInAsの成長を行うと、頂部の(001)面にInAs の微小な(~10nmサイズ)量子ドットを形成することができる。斜面を形成する{110} ファセットにはInAsの成長が全く生じることはなく、成長は頂面の基板に平行な(001)面上にのみ生じる。この理由は、(001)面上の表面エネルギー密度が、{110}面上のそれよりもやや大きいことによる。このためピラミッド頂部に10nmサイズの量子ドットを再現性良く形成することが可能になった。さらにその上にInGaAs閉じ込め層を成長させることにより、発光効率の高いInAs量子ドットを実現した。さらにInAs量子ドットはGaAsピラミッド頂部の(001) ファセット上に1個づつ形成されていることが、フォトルミネッセンスの測定により明らかになった。一個の量子ドットからの発光は約200μeV程度で、測定システムの分解能を40nm)を考慮に入れれば単一量子ドットにふさわしいスペクトルが得られていると考えられる。今後これらの単一量子ドット機能の導出とその応用に向けた研究を進める。