表題番号:2009B-216 日付:2013/04/28
研究課題一細胞操作系の開発による多細胞性シアノバクテリアのパターン形成原理の解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 岩崎 秀雄
研究成果概要
多細胞性シアノバクテリアAnabaena sp. PCC 7120は、窒素欠乏条件下でヘテロシストと呼ばれる細胞を、およそ10細胞に一つの割合で分化する。ヘテロシストは窒素固定に特化した細胞である。光合成によって生じる酸素に対して感受性があり、不可逆的に機能損傷を受ける窒素固定酵素が発現し、光合成系機能が抑制される。このヘテロシスト分化は、多細胞体制に見られる最も単純な秩序だった分化パターン(形態形成)の優れた研究モデルであり、分子遺伝学的解析から分化促進因子HetR、分化抑制因子PatSなど、多くの関連制御因子群が同定されてきた。
 私たちは、これらの発生分化パターンの一細胞レベルでの動態を観察するため、蛍光顕微鏡と高感度の冷却CCDカメラを用いて詳細なタイムラプス解析を行い、バクテリアの細胞系譜解析を実現した。また、hetR遺伝子発現動態をリアルタイムで観察し、細胞系譜と合わせて詳細に解析した。その結果、細胞分化パターニングは、pre-deterministicに決っているのではなく、細胞間相互作用を伴って動的に運命決定されていくこと、細胞分裂を阻害しても、等間隔の細胞分化パターンを維持できることなどを見いだした。これは、細胞分裂が分化に決定的な役割を果たすとの先行研究でのモデルを覆す重要な知見である。
 また、私たちは単細胞性シアノバクテリアを用いた概日リズムの研究で、さまざまな解析を行ってきた。その経験を踏まえ、Anabaenaにおける概日リズムの解析に着手し、概日リズムの発現に必須なkai遺伝子の相同遺伝子群の欠損株の作成や、ゲノムワイドな概日発現リズムを探索するためのマイクロアレイ解析を行った。マイクロアレイ解析についても今後さらに解析が必要であるが、単細胞性シアノバクテリアで得られた結果とは異なり、kai遺伝子の発現リズムがそれほど明確ではないこと、にもかかわらず一部の遺伝子の発現は高振幅リズムを示すことが分かってきた。また、kai遺伝子破壊株では、一部の概日発現遺伝子の発現リズムの異常が観察されたが、再現性を確認することが必要である。