表題番号:2009B-215 日付:2010/04/03
研究課題カリキュリン生産に関わる海洋微生物共生系のケミカルバイオロジー
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 中尾 洋一
研究成果概要
海綿に代表される海洋無脊椎動物は、陸上の生物が作り出す化合物とは構造が大きく異なるユニークな化合物の宝庫であることが知られ、医薬品素材の探索源としても有望視されている。一方、多くの海洋天然化合物が海洋無脊椎動物に共生している微生物によって生合成されていると考えられている。そこで本研究では、代表的な海洋天然化合物として知られているカリキュリンを含む海綿Discodermia calyxをモデルに選び、海綿という海洋微生物共生系における化合物の産生機構の理解につながる知見を得ることを目的として研究を行っている。
まず、海綿D. calyxを採集し、研究室内で飼育することにより、いつでも共生微生物が存在した健康的な状態の海綿を実験に使えるような飼育条件を検討した。これまでの研究において、室温で飼育すると1週間程度しか海綿が健康な状態で生存できないこと、低温(4度)で飼育すると相当期間飼育が可能なことが分かっていたため、海綿の健康的な状態を保つためには温度が非常に重要なファクターであると考え、水温30度、25度、20度にて飼育実験を行ってみたところ、20度で飼育すれば良好な健康状態を保ったまま飼育ができることを明らかにできた。
一方、カリキュリンを生合成していると考えられる微生物は我々の研究結果から16S rDNAの配列解析から、最近になって初めて存在が明らかになったOD1(OP11-derived 1, OP= Obsidian Pool)という新しい門に属する培養不可能な微生物に近いものであることが示唆されている。そこで、30度と20度で飼育した海綿から経時的に体の一部を切り取り、そこに含まれる微生物相の変化を遺伝解析によって行い、カリキュリン含量の変化とリンクさせて比較解析することで、カリキュリン生合成微生物の特定を行っている。