表題番号:2009B-204 日付:2014/04/30
研究課題ヒト心筋収縮系における自励振動(SPOC)特性の解析と評価
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 石渡 信一
研究成果概要
 担当者は長年にわたって、横紋筋収縮系が、収縮・弛緩の中間活性化条件で、自発的に収縮振動することを発見した。各サルコメアがほぼ一定の周期で、鋸波状に収縮・伸長を繰り返す(SPOC現象と命名)。そこで、各種動物から調製した心筋収縮系のSPOC周期が、その動物(ラット、ウサギ、イヌ、ブタ、ウシ)の静止心拍と直線関係にあることを発見した(2006年)。その結果、SPOCという筋収縮系に固有の自励振動特性が、心拍機構の基盤として機能している可能性が示唆されていた。そこで石渡は、長年の友人であるシドニー大学・医学部教授のCris Dos Remedios氏が調製・保存してきた正常および各種病態(拡張型心筋症(DCM)、肥大型心筋症(HCM))の、15歳から65歳の年齢層にわたるヒト心筋繊維(グリセリン処理筋)を、液体窒素保存のまま航空便で送ってもらい、我々の方法を活用してSPOC特性を研究してきた(早稲田大学ヒト倫理委員会の承認を得ている)。その結果、ヒト心筋はほぼブタ心筋と類似の振動特性を持つことを見出した。老化に伴うSPOC特性の変化については今のところ有意な違いは見られていないが、正常とDCMとではSPOC特性に有意な違いが見えている。それをもとに、Ca結合蛋白質であるトロポニンの特定のアミノ酸変異がある病態(DCM)心筋に対して、ブタの正常トロポニンに置換したところ、SPOC特性が正常型になることが見出された。つまり少なくとも、調べた心筋試料については、正常と病態(DCM)の違いは、トロポニンのアミノ酸変異が原因であることが明らかになったことになる。これらの研究成果は、まだ原著論文としては公表していないが、以下にまとめたように、いくつかの学会で発表してきた。さらに本年8月には、オーストラリアで開かれる”Human Heart Tissue Forum”で、過去5年以上にわたる研究成果をまとめて発表し、いくつかの原著論文、レビュー論文として公表する予定である。また、本研究課題は、シドニー大学のdos Remedios研究室との共同研究であり、シドニー大学でも優秀な博士課程大学院生が研究を継続しており、共著論文として公表する予定になっている。