表題番号:2009B-147 日付:2010/04/01
研究課題冷却中性原子系における非平衡熱場の量子論の定式化と応用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 山中 由也
研究成果概要
1995年、冷却中性原子気体系においてBose-Einstein凝縮(以下BEC)が実現された。盛んに実験及び理論研究がなされている外部ポテンシャルにより閉じ込められた冷却中性原子系は、希薄で相互作用が弱いこと、様々な実験パラメータの制御性の高さなどから、量子多体系の基礎の検証、特に非平衡過程を記述する熱場の量子論の構築に最適な系である。従来の冷却原子系に対する理論的解析においては、平均場、あるいは平均場のまわりの線形励起を加えた理論が圧倒的多数であるが、本研究では熱的及び量子揺らぎ効果を原理的に完全に取り入れた実時間正準形式熱場の量子論であるThermo Field Dynamics(以下TFD)を採用している。非平衡TFDの既存の研究で、空間一様系、あるいは終状態が空間一様平衡状態になる拡散系に限って、場の量子論の自己無撞着繰り込み条件から、時間依存粒子数分布に対する運動学的方程式が導かれるている。今年度発表した成果として、並進対称性のない有限サイズ系である閉じ込められた冷却原子気体系を対象に、BECのない場合と時間依存しないBECの場合に、非平衡TFD形式で場の量子論の自己無撞着繰り込み条件から、時間依存粒子数分布に対する運動学的方程式を導いた。この研究の重要な点は、場の量子論として正しい準粒子描像に基づいていることである。2-ループレベルでBECのない場合導かれた非マルコフ運動学的方程式は、マルコフ極限で、他の方法でも導かれている量子Boltzmann方程式に一致している。BECの存在する場合に導かれた方程式には、凝縮体から3粒子が生成される現象に対応する新しい衝突項が現れる。これは正しい準粒子描像に基づく結果である。この項の寄与は通常エネルギー保存則から禁止されているが、負エネルギー励起の現れるLandau不安定現象では重要となる。この研究はAnn. Phys.に論文として発表した。さらに、BECが時間依存する場合への拡張を試みており、一部成果を2010年3月日本物理学会にて発表した。