表題番号:2009B-137 日付:2010/04/09
研究課題多彩な生理機能に関わる新しい光受容機構の分子解析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 岡野 俊行
研究成果概要
近年の研究から、視細胞以外の動物組織に多様な光受容分子が存在し、外界の光を受容していることが明らかになってきた。このような光センサーのひとつとしてクリプトクロムが注目されている。昆虫では、クリプトクロムが青色光センサーとして機能していると同時に、光依存的な磁気センサーとしても機能する可能性が強く示唆されている。一方、脊椎動物にも複数のクリプトクロムが存在するものの、光や磁気の受容については全く不明である。我々はこれまで、鳥類をはじめ多数の生物においてクリプトクロムを同定し、概日時計機能を中心に解析を行ってきた。これまでの成果に基づきながら本研究では、脊椎動物クリプトクロムの新機能を探るためにアフリカツメガエルにおけるクリプトクロムの解析を行った。具体的にはまず、アフリカツメガエルに存在するクリプトクロム遺伝子の探索を行い、CRY1, CRY2, CRY4の3種類の遺伝子を同定した。次に、これらの遺伝子の発現部位を知るため、RT-PCR法を用いて組織ごとのCRYメッセンジャーRNAの定量を行った。その結果、興味深いことに、いずれのCRYも卵巣において、非常に高く発現していることが判った。これまでの研究では、CRYファミリー分子は、網膜や脳などの神経系、あるいは肝臓に高く発現していることが報告されていたが、こうした組織に比べても卵巣での発現は極めて高いことがわかった。次に、これら3種類のクリプトクロムの生理機能を探るため、転写アッセイを用いて、概日リズムの形成に関わる可能性を検討した。その結果、CRY1およびCRY2は、概日リズム形成の重要な鍵分子であるCLOCKおよびBMALに対して抑制的に働く転写抑制因子として機能することがわかった。一方、CRY4にはそのような機能は認められなかった。
 以上の研究を通して、クリプトクロムが卵巣において何らかの機能を果たしていることが推定された。CRY1およびCRY2は特に、概日時計の発振か、あるいは何らかの転写調節に関与していると推定された。また、CRY4には転写制御機能は見られなかったことから、新奇の光受容体として機能している可能性が示唆された。