表題番号:2009B-134 日付:2011/11/09
研究課題癌細胞遺伝子発現データベースを用いた新規乳癌治療標的の同定と創薬への応用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 仙波 憲太郎
研究成果概要
 細胞分裂において、複製した染色体は厳密に二つの細胞に分配される必要がある。この分配機構が破綻すると、染色体の数が変化し(異数性)、遺伝子発現のバランスが崩れたさまざまな細胞が生まれる。癌細胞において染色体分配機構が異常になると、増殖や生存に有利な細胞が出現すると考えられる。我々は、癌の悪性化に関わる治療標的遺伝子を同定する目的で、染色体分配を制御する遺伝子に着目し、その同定と機能解析を進めている。
 これまでに我々は独自に作製した125種類の癌細胞株の遺伝子発現プロファイルの解析から、がんの発症と悪性化にかかわる可能性のある新たな遺伝子増幅部位を同定した。最近、このデータベースとタンパク質局在データベースなどとの複数のデータベースの相互比較により、中心体、紡錘体、キネトコアなどに局在し、染色体分配に関わると予想された機能未知の24種類の遺伝子を新たに抽出した。これらの遺伝子について作製したsiRNAをHeLa細胞にトランスフェクションし、細胞増殖能とノコダゾールによるM期停止能を調べたところ、5種の遺伝子を抑制した細胞では、いずれも対照のHeLa細胞と比較して、増殖の抑制に加えて明らかな mitotic index の増加を認め、M期の進行に異常があることが示唆された。そのうちの1種類については、タイムラプス観察によりM期通過に要する時間を測定すると正常細胞の2倍以上であり、正常な分裂ができず多核となった細胞、多極性の紡錘体が観察された。また、微小管重合阻害剤であるノコダゾールを添加して行った実験では、1種類の遺伝子について、紡錘体チェックポイント機構によるM期停止が起こらず、多核を持った間期細胞が多数観察された。
 以上の結果から、これらの遺伝子は新規の染色体分配制御遺伝子であると考え、さらに詳細な解析を進めている。