表題番号:2009B-131 日付:2010/03/05
研究課題神経細胞樹状突起内のシグナル分子動態研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 井上 貴文
研究成果概要
シナプス可塑性の機構を解明することは脳の高次機能を理解するうえで不可欠である。遺伝子発現変化を介して数日あるいはそれ以上持続するシナプスの長期可塑性には核での遺伝子発現変化を促すためにシナプス後部から核への情報伝達機構が存在すると考えられている。この情報伝達の媒体としては、PKA, MAPキナーゼ, CaMキナーゼ群の活性化による核内転写因子の調節経路が注目されているが、本研究ではRIPにより特異的切断を受ける一群の膜タンパクによる、細胞内での増幅ステップを含まない新しい情報伝達系をとりあげた。RIPを受けることが知られているタンパク質のうち、シナプス後部に存在するものとしてN-cadherin、E-cadherinを選び、これらが実際にシナプス後部で刺激依存的に切断されC末断片が細胞質へと放出される様態を観察してきた。これまでに海馬初代培養神経細胞において刺激依存的なRIPがシナプス後部で働いており、この機構は標的タンパク質選択的であることを明らかにしてきた。本年度は更に詳細にN-cadherinの神経細胞活動依存的な切断と核移行を解析するために、N-cadherin遺伝子を改変してRIPによる切断を受けない変異遺伝子を作製した。この変異遺伝子を培養細胞にて発現しRIPによる切断が実際に起こらないことを確認した。今後はこの変異型N-cadherinを用いて、詳細に活動依存的、非依存的RIPを定量的に検討したい。また切断されたC末断片がどのような経過をたどり核に到達するかを検討してゆく。