表題番号:2009B-124 日付:2012/05/24
研究課題ケミカルバイオロジーの基盤技術としての遺伝子発現ライブラリーの開発と応用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 寺田 泰比古
研究成果概要
1)レンチウイルスを用いたランダムペプチド・ライブラリーの構築:
レンチウイルス型ライブラリーのマザーベクターの改変を以下の手順で行った。
赤色蛍光蛋白質・mRFP遺伝子をCMV promoterの下流に挿入し、さらに、BstXIサイトを両末端に持つstufferサイトを、mRFPの下流に配置した。一方、ランダムペプチドをコードする領域は、(NNK)18の両側にBstXIサイトを付加したオリゴヌクレオチドを合成し、この3’側の(NNK)を含まない既知の領域にアニールするアンチセンス・プライマーを合成し、二つのプライマーをアニール後、T4 DNA polymeraseにて逆鎖を合成した後、BstXIにて切断し、上記、ベクター(BstXI処理)に挿入した。エレクトロポレーション法にて大腸菌に導入することによって、2-3x107以上のcomplexityを持つライブラリーの合成に成功した。
次に、レンチウイルスのヘルパーベクターとともに293T細胞に遺伝子導入し、ライブラリーをレンチウイルスへ変換した。HeLa細胞に希釈したウイルスライブラリーを導入したところ、高効率で導入することができ、mRFPとの融合タンパク質としてランダムペプチドが安定的に細胞内で保持されていることを確認した。
2)スクリーニング系の構築:
ヒトSirt1 promoterやヒトMn-SOD promoter領域を、ヒトゲノムDNAを鋳型としてPCR法によりクローニングし、EGFP(緑色蛍光蛋白質)をレポーター遺伝子としてそれぞれのpromoterの下流に挿入した。それぞれのユニットをHeLa細胞に導入し、安定発現株を樹立した。
3)安定発現株を用いたスクリーニング:
上記2)の細胞株を用いて、上記1)のランダムウイルス・ライブラリーを1x10>7以上のスケールで感染させ、FACSのsortingを2回繰り返すことによって、Sirt1とMn-SOD のそれぞれのpromoterの転写活性を亢進させる短鎖ペプチドを単離した。現在のところ、Sirt1 promoterの転写活性を亢進させる4つの異なる短鎖ペプチドの単離に成功している。
4)短鎖ペプチドに結合する細胞側のタンパク質の同定:
上記3)の4つの短鎖ペプチドのうち、最も活性が強いペプチドに結合する細胞側のタンパク質を酵母two-hybridスクリーニングを用いて同定した。
5)今後の展望と考察:
上記4)から細胞側の結合タンパク質が同定されれば、これが化合物スクリーニングのための分子標的を知る上で、有益な情報となるであろう。Sirt1は心筋梗塞や糖尿病疾患に関わる重要な遺伝子で、今回、得られた短鎖ペプチドと同様な分子機構で機能する化合物の探索方法が樹立できれば、細胞内のSirt1量を亢進させるような新規の薬剤の開発への大きな一歩となるだろう。
現在、第三世代のレンチウイルスライブラリーの開発と、新たなスクリーニング系を構築しており、これらを組み合わせることによって、薬の開発のための最適な分子標的の情報を容易に得ることができるようになるだろう。