表題番号:2009B-123 日付:2017/03/23
研究課題ボロン酸の反応性に関する基礎研究ー糖類のセンシングと腫瘍治療への展開ー
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 石原 浩二
研究成果概要
 ホウ酸やその一置換体であるボロン酸は、多くの二座配位子(o-diphenols, o-hydroxy acids, α-hydroxy acids, etc.)と迅速に可逆的に反応するため、古くからこれらの化合物に対するボロン酸センサーが開発されて来ている。例えば、糖類をセンシングするためのボロン酸を含む試薬の開発は、今日もなお活発に行われている。また、近年、L-lactateをin vivoで定量するためのボロン酸センサーが開発されている。このセンサーは、他の血中成分(pyruvate, galactose, fructose, glucose)と反応し得るため、これらにより妨害を受ける可能性がある。特にglucoseは血中濃度が約5 mMと他の成分(< 0.1 mM)より高いため、妨害する可能性が高い。生理学的pH (7.4)において、乳酸はカルボキシル基が酸解離したHL-として存在する一方、糖類はH2Lとして存在する。ボロン酸に対する多くの二座配位子(糖を含む)の反応性は、H2L > HL- であるが、乳酸やマンデル酸は逆にHL- > H2Lであると報告されている。
 本研究では、まず、ボロン酸の乳酸やマンデル酸に対する反応性がHL- > H2Lであるとの報告が正しいのか否かを、ボロン酸としてフェニルボロン酸を用いて確認した。もし報告が正しければ、何故α-hydroxy acidのみ他の配位子と反応性が異なるのかは解決すべき新たな課題となり、また、ボロン酸およびボロン酸イオンとHL-との反応の速度定数を実測することができる数少ない反応系であることになる。また、その測定結果から、pH 7.4におけるボロン酸による乳酸の定量にglucoseが妨害するか否かを判断するための化学的情報が得られる。そのため、塩基性条件下でフェニルボロン酸と乳酸およびマンデル酸の反応の速度論的精密測定を行った。
 測定結果を精密解析することにより、反応性はHL- > H2Lであることが確認された。従って、塩基性における測定結果から、フェニルボロン酸(PhB(OH)2)およびフェニルボロン酸イオン(PhB(OH)3-)とHL-との速度定数を直接計算できる(proton ambiguityを回避できる)ことがわかった。また、解析結果より、HL-に対する反応性は従来の推定とは全く異なり、PhB(OH)2 > PhB(OH)3- であることがわかった。この結果と、我々のフェニルボロン酸とエチレングリコール、プロピレングリコールとの塩基性における測定結果(Inorg. Chem., 47, 1417 (2008).)等から、上記のセンシングに、共存するglucoseはほとんど影響しないと結論できる。