表題番号:2009B-101 日付:2010/11/08
研究課題SHG干渉顕微鏡を用いたマルチフェロ物質のドメイン3次元観察
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 上江洲 由晃
研究成果概要
強誘電性、強弾性と磁気秩序が共存するマルチフェロ物質に着目し、そのメソスコピックスケールの分域構造を、光第2高調波発生(SHG)干渉顕微鏡を用いて3次元非破壊観察することを目的とする。それにより異なる秩序状態の相互作用や外場のもとでの応答を実空間で視覚化することにより、マルチフェロの起因を解明する。最終目標のひとつとして、SHG干渉顕微鏡を医学におけるMRIやCT診断器と同じ、材料の新しい診断装置に発展させたいと考えている。誰でも使用でき、汎用性豊かな日本発信の新しい顕微鏡を完成させ、それを用いてマルチフェロの発現機構に迫る。
 このような趣旨のもとで試料が発生する光第2高調波(SHG)をプローブとする新しい非線形光学顕微鏡(SHG干渉顕微鏡)を開発してきた。この顕微鏡の特色は、(1)従来の光学顕微鏡では観察できない試料内のヘテロ構造、たとえば強誘電体の180°分域構造、を観察できること、(2)非破壊で3次元観察が可能であること、(3)SHGが空間反転対称性の破れと時間反転対称性の破れに敏感な物理現象であることを利用して、強誘電ドメインと磁気ドメインを識別して観察できること、(4)無機物質だけでなく生体物質の極性構造を観察できること、などである。
 この特色を生かして2009年度は以下の成果を得た
(1)典型的なマルチフェロBiFeO3単結晶の独立なSHGテンソルの大きさと符号を決定し、また磁気ドメインと強誘電ドメインを識別できるSHGテンソル成分を明らかにしたこと(Appl. Phys. Lett. 95, 082904 (2009))。
(2)180度分域構造を識別するためにわれわれは干渉法、すなわち試料が発生する第2高調波と、一様な参照波を干渉させることにより、分域構造を明暗の強度として識別している。一方で干渉なしでも分域構造は見えるとする論文がいくつか報告されている。そこでわれわれはこの問題を強く絞った基本波を用いた光学系という実際に使用している光学系の上に立って、非線形波動方程式を数値解析した。これによると干渉させない場合は、分域そのものではなく分域境界が黒くみえることを証明した。また疑似位相整合素子に使用されている周期性反転分極の空間分解能が、その周期にも依存することを明らかにした。
(3)筋繊維のSHG干渉顕微鏡観察で石渡研究室との共同研究を進めた。現在論文準備中であるが応用物理学会シンポジウム、および物理学会シンポジウムで成果を講演した。