表題番号:2009B-096 日付:2012/11/09
研究課題富士山体を利用した自由対流圏高度におけるエアロゾルー雲ー降水相互作用の観測
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 大河内 博
研究成果概要
 雲はエアロゾルを凝結核として生成し,その成長過程で水溶性ガスを吸収する.雲粒径が臨界直径より小さければ,雲粒は消失して気相にエアロゾルを放出するが,この過程を通じてエアロゾル径を増加させるとともに,水溶性成分を増加させる.雲粒径が臨界直径より大きければ,雲粒はさらに液滴成長して併合衝突により雨滴となって地上に落下する.このエアロゾルー雲ー降水相互作用は,地球温暖化とその環境影響の将来予測の観点から注目されている.本研究では,自由対流圏高度に位置する富士山頂で雨水,霧水,水溶性ガス・エアロゾルの連続観測を行い,日本上空のバックグランド大気濃度の解明を行うとともに,エアロゾル-雲-降水相互作用について検討した.
 観測期間は2008年7月19日~8月25日であり,7月23日~30日までは泊まり込んでの集中観測を行った.観測地点は,富士山頂(富士山測候所,3776 m)と富士山南東麓(太郎坊,1300 m)である.観測項目はエアロゾル水溶性主要無機成分,酸性ガス(二酸化硫黄,硝酸,塩化水素)およびアンモニア,雲水および雨水中主要無機成分である.エアロゾルおよびガス成分の捕集には4段フィルター法,富士山頂における雲水の採取には受動型霧水採取器,富士山南東麓における雲水の採取には強制通風型自動霧水採取機を用いた.富士山麓では通年観測も行った。
 7月集中観測期間中の富士山頂における雲水pHは4.04 ~ 5.61(平均:4.71),同時期に南東麓で採取された雲水pHは3.85~ 5.85(平均:4.12)であり,富士山頂では雲水のpH範囲が狭く,南東麓の雲水に比べて酸性度が低かった.雲水の主要な酸性物質である硝酸イオン濃度と非海塩性硫酸イオン濃度の比(NO3-/nss SO42-比)は富士山頂で0.24 ~ 1.98(平均:0.66),南東麓で0.28 ~ 2.42(平均:1.51)であり,富士山頂では硝酸イオンの存在割合が小さかった.一方,7月集中観測期間中の山頂におけるHNO3濃度は0 ~ 0.09 ppbv(平均:0.02 ppbv),SO2濃度は0.06 ~ 0.33 ppbv(平均:0.19 ppbv)であり,南東麓におけるHNO3濃度は0 ~ 0.14 ppbv(平均:0.03 ppbv),SO2濃度は0 ~ 0.38 ppbv(平均:0.14 ppbv)であった.HNO3濃度は富士山頂と南東麓でほぼ同じか,富士山頂で低濃度の傾向にあるが,SO2濃度は富士山頂で高濃度となる傾向が見られた.SO2濃度の上昇時には,CO濃度(燃焼起源の指標)とラドン濃度(陸地起源)の上昇を伴い,このときにはアジア大陸方向から空気塊が輸送されていた.したがって,アジア大陸由来のSO2が偏西風によって日本上空に輸送され, その輸送過程における粒子化とともに,SO2が雲水に取り込まれることによって富士山頂の雲水では富士山麓に比べてNO3-/nss SO42-比が低下したものと考えられた.