表題番号:2009B-079 日付:2010/02/23
研究課題メダカポリコーム遺伝子群による左右軸決定のエピジェネティック制御
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教授 東中川 徹
研究成果概要
我々は、「エピジェネティック・メモリー」の機構に関与すると考えられているPolycomb遺伝子群(PcG)の作用機序を明らかにすることを研究目的として来た。昨年度、メダカのPcG遺伝子oleed が左右軸の決定に関与することを見出し論文発表した。引き続き、本年度は別のPcG遺伝子olezh1の機能減少胚が同様の臓器逆位を示すことを見出した。しかし、Kupffer胞の繊毛の存在状態に異常は見られず、oleedとは異なる機構が働いていることが示唆された。外科的手法によりクッパー胞を物理的に破壊することと、olezh1のノックダウンを組み合わせることで、OLEZH1がSpawの転写を直接抑制するという仮説を立て、これをin vitroの実験系で検証した。NIH3T3細胞において、Nodalのエンハンサーに直接結合してその発現を左右非対称に制御する転写因子FoxH1を、Ezh1と共に過剰発現させて免疫共沈法を行ったところEzh1とFoxH1が結合することが示された。NodalがEzh1の直接の標的遺伝子であることを示唆する。またこれにより、Ezh1によるNodalの制御が哺乳類においても保存されている可能性が示唆された。Ezh1は哺乳類で同定されたが、それ以外の種においては存在の有無も定かではなかった。cDNAスクリーニング及びゲノム、ESTの情報を用いたin silicoの調査により、魚類、両生類、爬虫類においてEzh1相同遺伝子の候補が同定された。アミノ酸配列ならびにシンテニーの比較より、それらが哺乳類Ezh1のオルソログであることが確かめられた。つまり、Ezh1は脊椎動物を通して保存されていた。またナメクジウオのゲノム情報の探索から、脊索動物から脊椎動物への進化の過程でE(z)が重複してEzh1とEzh2が生じたことが推察された。Ezh1の高度な保存性は、この遺伝子がEzh2にはない独自の重要な役割を持つことを示唆する。これらの知見と呼応して、SETドメイン領域の一次構造の詳細な比較から、Ezh1とEzh2それぞれに異なった特徴的構造が保存されていることが見出された。以上の知見は、脊椎動物におけるEzh1の機能的重要性を理論的に主張するものである。正しい左右軸の決定は、脊椎動物における臓器の正常な機能にとり必須であり、たとえば、ヒトにおける左右軸の異常はKartagener症候群に見られるような病変へと至る。本研究は、これらの疾病の病因解析の端緒を開くとともに、学術的には遺伝的に決定されていると考えられていた左右軸の決定にエピジェネティックな制御が加わることを明らかにするものである。