表題番号:2009B-070 日付:2010/03/08
研究課題現世土壌の化学組成に基づく古気候解析の新しい指標の提示
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 専任講師 太田 亨
研究成果概要
本研究課題は,土壌の化学組成データから化学風化度の程度を,申請者が新たに開発したW値(8つの酸化物組成の主成分分析に基づく風化指標)によって抽出し,その土壌生成場の気候と化学組成の関係を解明することにある.さらに,この現世土壌データの解析結果を,古土壌の化学組成(XRF分析)に対して適応し,古気候解析の新たな指標を提示することにある.
 前者の目的「気候帯が既知である現世土壌を分析して,気候を判別するW値の閾値を明らかにする」に関しては,1200個の土壌データの予察的解析を試みた.その結果,W値より気候を判定できることが判明した(Ohta et al., 2009a).しかし,温帯気候の土壌に関しては,気候判定精度が十分でない問題点も浮き彫りとなった.おそらくこの原因は,温帯気候帯が多様性に富むにもかかわらず,一括して解析した事に起因していると考えられる.この問題点解決のため,この研究期間中に,より細分化した気候帯(例えば,湿潤性大陸気候,大陸性混合林気候,地中海性気候,西岸海洋性気候など)を網羅したデータベースの作成に従事し,さらに総計2000個の土壌データを加算した.
 後者の「古気候解析への応用」については,中国北東部に分布する前期白亜紀の堆積岩類への応用を試みた.この時代のこの地域は,鳥類・被子植物の祖先や原始的なほ乳類化石を産することから,生物進化学上,重要視されてきた.しかし,なぜこの地域のこの時期に爆発的な進化が起きたのかは不明であった.W値による解析の結果,爆発的な進化が起こった層準(時期)にW値が有意に上昇している事が判明した(太田ほか,2009;Ohta et al., 2009b).W値の上昇は気温の上昇や降雨量の上昇を意味する.したがって,爆発的進化の背景には,古動植物の繁栄をもたらすような気候の好転が関与していた可能性が明らかになった(太田ほか,2009;Ohta et al., 2009b).
 また,北海道の空知層群・蝦夷累層群に対してもW値の測定を行った(小林ほか,2009).前者と後者では後背地風化過程が大きく異なり,空知-蝦夷境界において,北海道における大きな地帯構造変動があったことが示唆されることが明らかになった(小林ほか,2009).