表題番号:2009B-052 日付:2010/04/16
研究課題日本近代文学史再構築のための「時代小説」論の総合的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 高橋 敏夫
研究成果概要
小説の一大ジャンルとして多くの書き手と膨大な読者を有する「時代小説」(歴史小説含む)は、1990年代以降、従来にない規模のブームをひきおこしている。1970年前後の司馬遼太郎を主たる担い手とした歴史小説ブームや、1950年代後半の剣豪小説ブームなどに比べてもいっそう大きなブームである。
しかし、このようなブームを巻き起こしてきた「時代小説」については、学術的かつ総合的な研究はほとんどなされてこず、その結果、ブームについてはもとより時代小説について持続的に考察しうる場および組織(例えば「時代小説・歴史小説」学会)が形成されなかった。時代小説作家と「時代小説」論を研究課題にする研究者はきわめて少数で、これは対象を「大衆文学(現在では「エンタテインメント」とよばれる)」にひろげても変わらない。
これまでわたしは中里介山の『大菩薩峠』をはじめとして、山本周五郎や藤沢周平、また司馬遼太郎や池波正太郎の作品分析を通してこのような状況を打破し、「時代小説」「歴史小説」の意義を明らかにしようと試みてきた。今後は、成立から現在のブームに至るまでの主要作品を考究することで、時代小説の学術的かつ総合的な研究の基礎をつくりたい。
今回の研究には三本の柱がある。一は、戦後の歴史・時代小説ブームの概観。この一端はは、たまたま依頼のあった「日本経済新聞」に「歴史・時代小説入門講座」(10月の5週連載)として発表した。二は、勉誠出版での企画『座談会 歴史・時代小説――成立から現在まで』の準備作業。わたしと歴史学者の成田龍一の共同編集で、扱う作家・作品およびテーマなどを決定した。三は、ここ5年にわたって続けている最新刊の時代小説の批評である。雑誌「グラフィケーション」(富士ゼロックス発行)を主に、多くの雑誌・週刊誌・新聞で展開中である。