表題番号:2009B-050 日付:2010/04/05
研究課題初期メソポタミア史における王権と法
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 前田 徹
研究成果概要
 本研究課題の目的は、初期メソポタミアに区分される前3千紀後半と前2千年紀前半の楔形文字史料によって、王権と法の関わりを検討することであった。具体的には、従来、個別的に扱われてきた初期メソポタミア(前1500年以前)における法の明文化(法典)、都市支配者による債務奴隷の解放宣言、債務証書の破棄(徳政令)などを網羅し、看過されてきた王権の視点から、都市国家から統一国家への発展に平行して変化した王権の理念や権能に関連させた法研究を目指し、王が社会規範としての法をどのように捉え、法を統治の一環として、どのように社会に浸透させたかを検証することが目的である。意図としては、従来の法制史的研究の欠けた部分を新しい視点からの検討によって補い、初期メソポタミア史における法と王権との性格付けをより精緻にすることにある。
 関係史料は、王権の発展に合わせて、法典が成立したウル第三王朝を区切りとして、それ以前と以後に二分した。ウル第三王朝時代以前(前2500年‐前2100年)が(1)の段階であるが、さらに後者を、(2)ウル第三王朝以後ハンムラビまでの時期(前2100年‐前1750年)、(3)ハンムラビ以後の時期(前1750年‐前1500年)に二分することで、結果として3区分による史料収集と分析をおこなった。
 本研究に入る前に、(1)の段階については、ある程度の研究見通しが立っており、ここでの中心は(2)の段階から(3)への変化である。研究期間内では、史料を収集し、その解釈と整理までを行った。しかし、いまだ結論を述べる段階にはない。ただし、(2)の段階に関係するのであるが、この研究の基礎になる法典について、同じ法典とされるにしても、ウルナンム法典、エシュヌンナ法典、ハンムラビ法典の3法典と、エシュヌンナ法典やアッシリア法典とは、性格が異なり、王権に関わる性格付けも区別しなければならないという確信を強くした。