表題番号:2009B-035 日付:2014/04/08
研究課題夏目漱石における「笑い」観の形成と『吾輩は猫である』
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 安藤 文人
研究成果概要
本研究は『吾輩は猫である』に横溢する多種多様な「笑い」について、文芸形式におけるジャンル論、また読者反応論のアプローチを用いながら精緻な分析を施し、その淵源である作者夏目漱石自身の「笑い観」について明らかにすることを最終的な目的としながら、まず漱石自身の「笑い」あるいは喜劇に関する言及や関連する蔵書への書き込み、また外国文学からの影響を探ることで、漱石の「笑い」観がどのように形成されていったのか、その過程の再構成を試みるものであった。
 本来この研究は3年間を目処に一定の成果を得ることを目指すものであったが、本研究課題費の得られた平成22年度においては、まず漱石の「笑い」観形成にかかわる文献資料の収集と整理を行った。より具体的には、『吾輩は猫である』執筆までに漱石のなした文章・雑文・論考、また書簡や俳句、さらには漢詩などを対象として、ア)直接「笑い」について言及した部分 イ)「笑い」の要素を持つ部分(たとえば子規への書簡でユーモアを含ませた記述など)を収集し、データベース化することを目指したが、実際には個別事例の収集とデータベースの設計段階に終始し、データベースの構築にまでは至らなかった。
 代わって(むしろその準備として)行ったのは、『吾輩は猫である』の研究史・受容史から、特にその「笑い」にかかわる言及・批評について、できる限り網羅的な収集を図ることであった。つまり、漱石自身の言及に基づく「笑い」データベース作成の前段階として、『吾輩は猫である』の「笑い」に関する批評データベースの作成に着手することになった。この作業もまだ終了してはいないが、批評データベースによって『吾輩は猫である』の受容の特質を把握することで、より焦点の定まった漱石作品からの「笑い」データベースの設計が可能になると思われるため、いささか迂遠ではあるが、この方向での作業を今後とも継続する予定である。