表題番号:2009B-034 日付:2010/03/02
研究課題グローバル化時代における世界市民主義の日独共同研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 准教授 御子柴 善之
研究成果概要
本研究課題の中心事項は、ドイツ連邦共和国ボンにある早稲田大学ヨーロッパセンターで、第三回日独倫理学コロキウムを開催することである。この企画を2009年8月21日に実施し、当日前後に参加者の事情でプログラム変更を余儀なくされたものの、全体として盛会のうちに終了することができた。以下、当日の参加者の氏名、所属、発表題目、そのポイントを記す。舟場保之氏(大阪大学准教授)の発表「言明<格率が公表性と一致しない>が意味するものは何か」は、カントの『永遠平和のために』に見られる、表題に含まれる言明の意味を検討することで、カントが『道徳形而上学』で国際法レベルにおける国際会議の必要性を論じたことの積極的意義を論じた。A・ニーダーベルガー氏(フランクフルト大学講師)の発表「国家横断的民主主義の理論と国際法の古典的著述家たち(グロティウス、プーフェンドルフ、ヴァッテルの著作におけるコスモポリタン的な法の限界と可能性)」は、グロティウス、プーフェンドルフ、ヴァッテルの所説を取り上げ、主権国家という制度を克服する意義とその困難を論じた。寺田俊郎氏(明治学院大学准教授)の発表「グローバルな責任:人間愛ではなく人権の問題である」は、カントの「困窮した他者を助ける義務」という観念を他の著作を踏まえて検討し、その現代的意義と限界を論じた。御子柴(本学)の発表「社会倫理の一原理としての信頼:永遠平和のための第6予備条項からの展望」は、カントの「信頼」概念への言及を端緒とし、さらにジンメル、ボルノーらの所説を検討することで、現代社会に信頼を不断に回復することの意義を論じた。M・バウム氏(ブッパータール大学教授)の発表「カントと倫理的公共体」は、カントが『宗教論』で論じる、「人類の人類に対する義務」としての「倫理的公共体」形成を再検討することで、社会化そのものが道徳的に必然的であることを主張した。M・ルッツ=バッハマン氏(フランクフルト大学教授)の発表「カントにおける平和の義務とグローバル化時代における普遍的責任のコンセプト」は、カントにも見られる「民主的平和論」を再検討し、カントの思想を現代的な政治哲学の見地から補完するための必要事項を明らかにした。以上が上記コロキウムの概要である。全体として、カントの倫理思想、法思想は、必要な補完が行われるなら、現代的な政治状況においてアクチュアルな意義を主張できるものであることが確認された。なお、この議論を継続すべく、すでに2010年8月に第四回コロキウムが予定されており、そのための準備会合を二回、早稲田大学で開催したことを付記する。