表題番号:2009B-033 日付:2010/11/16
研究課題パプア・ニューギニアにおける土器型式成立過程の民族考古学的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 高橋 龍三郎
研究成果概要
 2009年8月5日から15日にかけて、大学院博士課程の学生を研究協力者として随行させ、パプア・ニューギニア東部、ミルンベイ地方のワリ島に渡海し、現地の女性たちが製作に関与する家庭的土器生産の実態について聞き取り調査を実施した。
 同島は通称エンジニアリング・グループと称される独特の土器型式(ワリ式土器)を生産する島として有名である。この島は地力が衰えて農業生産が島人口を支持できないため、女性たちが家庭的な素焼きの土器を生産して、それを遠くに輸出して農産物を交換するシステムを早くから発達してきた。私の調査でも数十キロメートル離れたパプア・ニューギニア本島にももたらされた事実が判明している。
 女性たちが土器生産を行い、男たちはそれをカヌーに乗せて島々に出掛けて売りさばくのに関与する。土器は母系制社会の中で生産されるために、女性たちは生まれた村で母親から技術を伝授され、娘に継承する。そのために同一のクランの製作技術が純粋に保存される契機となる。フィールド調査では各村の親族構造について調査し、土器製作者の系譜的な事実関係を聞き取った。これは土器製作技術や型式学的な特徴のまとまりが形成される大きな契機となる。同時に婚後の居住規定では、母系制社会でありながら夫婦は妻方、夫方のどちらにも居住できる独特の規定があるために、土器製作者の自由な移動が型式的特徴の拡散の契機となる。調査では土器型式を構成する様々な要素ー文様、施文具、文様帯、器形などの属性に注意しながら、各家庭に保存されるクランごとの土器について記録して資料を集積した。同時に各集落のクランとリネージ、さらにトーテムなどの情報を収集した。
 今まで同島の詳細な測量図がないので、集落立地や地形などを記録するためにGPSによる測量を合わせておこなった。今後の調査に備えるためである。