表題番号:2009B-032 日付:2010/03/31
研究課題清末民国初期の古籍「書影」に関する文献学的調査研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 稲畑 耕一郎
研究成果概要
 表記の課題に対して、この半年ばかりの間、日本と中国の主要な図書館に出向いて、そこに所蔵される清末から民国年間に出版された古籍善本の書影本を網羅的に調査した。まず8月に北京の中国国家図書館と北京大学で調査を行い、9月には復旦大学図書館と上海図書館での調査を行った。国内では、本学図書館を始め、東京大学総合図書館、東洋文化研究所、国会図書館、京都大学人文科学研究所などにおいて調査を行った。その成果を取りまとめ、中間報告として、11月はじめに江蘇省揚州で開催した早稲田大学中国古籍文化研究所と揚州中国雕版印刷博物館との合同主催の「中日雕版与印刷文化国際シンポジウム」で発表した。また11月後半には、台湾の中央研究院の歴史語言研究所傅斯年図書館での招待講演を依頼された機会に、表記課題についての調査をあわせて行った。
 こうした調査と学会発表の成果をもとに、「『宋元書影』をめぐる二三のこと―黎明期の古籍影印事業の試み―」という論文にまとめ、『中国文学研究』第35期(早稲田大学中国文学会、2009年12月刊)に発表した。それは、民国初期に刊行された最初期の『宋元書景(影)』について、その編者、並びに刊行者が、この当時の蔵書家であり、校勘学者であり、また中国近代図書館の確立に大きく寄与した繆荃孫であること、刊行年は民国八年(1919年)十月、編者の亡くなる直前であることなどを指摘した。が、従来の内外の図書館の書誌情報の誤りを正すとともに、この書影本のその当時と今日における文献学史上の価値などについて論じた。
 古籍善本の影印出版事業は、その後の中国古典学の進展を支える大きな貢献を果たしてきており、本課題の探究を通してその事業の出発点がどのようなものであったかの一端を明らかにできたと考える。
 このテーマについては、引き続きさまざまな角度から研究を継続していくことになるが、この研究期間中に執筆した「傅増湘と蓬山話旧」(下記「研究成果」参照)などもこれに関連した論文であり、従来まったく触れられることのなかった民国時代の学者たちの「雅会」の活動を通して、この時代の文献学者たちの研究活動を突き動かしたものが、この清末民初の時期、崩れゆくかに見えた伝統文化への強い追慕の思いに出るものであったことを明らかにした。