表題番号:2009B-030 日付:2013/04/28
研究課題人間と神との一致の表出-キリスト図像とドイツ神秘思想の観点から
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 教授 田島 照久
研究成果概要
本特定課題研究は、キリスト教成立以来語られてきた「神と人間が一致する」という言説に注目し、「神人合一」を説くドイツ神秘思想の教説と、教義上神であると同時に人であるとされるイエス・キリストを画いた「キリスト図像」を手がかりにしてその意味を探ることを目的としたものである。「神と人間の一致」という教義がドイツ神秘思想によってどのように解釈されたか、また図像学上ではどのように視覚化されていったのかを、宗教哲学、図像学(イコノグラフィー)および図像解釈学(イコノロジー)の固有な分析理論を用いて考察し、そこから得た知見を相互に照らし合わせ「神と人間の一致」とはキリスト教にとってどのような意味を持つのかを総合的に考察することをめざすものである。
 本特定課題研究では、もともとは、文字を読めない人々のために絵画テキストとして登場したキリスト教図像を手がかりにして「神と人間の一致」というテーマを図像学的に探るという方法を採るが、これまでの申請者の調査結果により、きわめて特殊な二種類のタイプのキリスト図像があることが明らかになっている。
 一つは「神秘の葡萄搾り機図像」(葡萄搾り機の中でキリストが梁を背負って立ち、五つの傷口から血を噴き出している図像)であり、もう一つは「薬剤師キリスト図像」(薬局の内に立ち薬剤を調合するキリスト図像)である。2009年度は特別研究期間適用者であることもあり、イタリア各地のキリスト図像現地調査、また研究受け入れ先であるドイツ・ミュンヘンの美術史中央研究所の文献資料および同研究所併設のフォトテークで上記の二種類のタイプのキリスト図像に関する資料および研究文献を集中収集、またバイエルン国立図書館所蔵の写本資料の解読をすることができた。
 ドイツ神秘思想領域の研究はドイツ神秘思想の中心的思想家であるマイスター・エックハルト(ca.1260-1328)のラテン語主著『ヨハネ福音書注解』を中心に詳細に検討を加え、「神と人間の一致」思想の基礎をなすエックハルトの「本質的始原論」の構造を、ディートリヒ・フォン・フライベルクの「本質的原因論」と比較したうえで、その独自性を明確にすることができた。とくにこれまで指摘されることのなかった、エックハルトの全論理を支える‘in quantum’という特殊語法を指摘、解明することができたことは大きな収穫であった。ドイツ神秘思想領域のこうした学術成果は、夏に出版される『信仰と知性』(仮題、K.リーゼンフーバー教授退職記念論文集)のなかで公表される予定である。ドイツ神秘思想領域においても、キリスト図像領域においても予定通りの研究成果を上げることができたと考える。