表題番号:2009B-028 日付:2010/04/09
研究課題構造変革に伴う行政領域間交錯と経済行政法理論の新構築のための総合的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 首藤 重幸
研究成果概要
日本における行政改革・規制改革の展開のなかで、行政法学は検討すべき二つの研究課題に直面した。第一は、行政改革・規制改革が、行政権の市民社会への介入の範囲と方法を大きく変化させる内容を有することから、それらは従来の行政法体系や行政法原理の再検討・再構成を強いることにならざるをえないものか否かの検討である。第二は、第一の研究課題の前提的検討作業という性格を有するものでもあるが、個別の経済行政領域ですでに出現している規制手法や規制範囲の変化を正確に把握することである。
 このような二つの検討課題は、経済行政領域が広範で多様であるため、個人のみの研究作業で達成することは困難である。そこで、早稲田行政法研究会に参加している研究者のメンバーに研究協力をお願いして、上記の研究課題の検討を進めた。
 まず、ドイツにおける経済行政法研究の成果を研究会のメンバーの共通理解としたうえで、ドイツ経済行政法の体系書が採用している構成も参考にしながら、検討項目を抽出・分類して検討を進めた。そして、この研究の成果としてまとめられたのが『経済行政法の理論』(首藤重幸・岡田正則編著)である。これは、わが国ではじめて多数の研究者が参加して作成された経済行政法の論文集であると考えているが、以下のような編別をもつ論文集として構成されている。この編別のもつ体系性自体も、多くの議論を踏まえてのものであり、一つの研究成果であると考えている。
 (構成)第一部:経済行政法の基礎理論
     第二部:経済行政法における組織法の理論
     第三部:経済行政過程論(法的統制の手法論)
     第四部:経済行政と権利救済
     第五部:経済行政法と税財政・経済理論                 (以上の五部を全18論文で構成)

 私は、この研究のなかで「経済行政法における情報」という領域を担当し、このテーマを製品の危険表示に関わる問題を素材として、民事的な製造物責任法の観点からではなく、経済行政法の観点から検討した。そして、情報という観点からは、経済行政における規制手法としての「行政指導」に注目すべきであり、経済行政法においては、権力的な行政処分よりも非権力的な行政指導が重要な役割を担うのであり、行政法体系としても行政指導の位置づけを変えるべきとの見解を持つに至った。
 さらに、原子力発電政策に関わって、2008年度にイギリスに滞在した研究成果の一つとして、高度科学技術にかかわる政策決定段階での司法統制の手法についての研究をまとめた。