表題番号:2009A-939 日付:2011/04/11
研究課題文学研究の文学教育への応用、並びに文学教育の実践における文学研究への反映
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 高等学院 教諭 相沢 毅彦
研究成果概要
 本論文は2008年度に行った授業実践を分析し、さらに検討・発展させた上で論文化したものである。
 具体的な研究成果としては、これまでにない『海の方の子』についての読みを提示することができたこと。そして、より大きな意義として、他の作品にも応用することができる読みの理論を一歩前に進めることができたことである。
 では、それがどのような読みの理論・方法かと言えば、「語り手」の「語り」に注目しそれを読んでいくこと、さらに「語り手」の「語り」を相対化し、物語を語っている「語り手」を読む試みをすること、であった。
 物語とはそもそも語り手がある出来事を回想し、それを「語りの現在」から語り直す行為であり、そのため基本的には過去の出来事が語られている。よって最初の読書行為では読者はまずその(過去の)出来事に意識が向き、それを読むことになるのだが、これまでの読みや研究の多くはこの「出来事」のレベルに留まった形で読まれ、問題化されることが多かった。しかし、本当の意味で物語を「読む」ためには、その出来事を語り手がどのように語っているのか。あるいは、どのような視点から語っているのか。どのような語り方で語っているのか等の「語り手」自身が問題化されなければならない。
 そもそも出来事というのは完全に中立な立場で語ることはできない。ある出来事は誰かからの何らかの立場からでしか見ることが出来ない。そのため、そうした「語り」と「語り手」を問題化し、出来事だけではなく「語り」や「語り手」を読まなければならないということになる。
 そして、そのようなことを行う為には、そうした物語に直接生身の存在として登場する「語り手」をメタレベルから相対化させる必要があるということである。そのような位置から語り手を読み直し、生身の語り手がその出来事を語る際の立ち位置や、見えていること、見えていないこと等を浮き上がらせることによって、その物語が物語られた意味というものを読んでいくということが必要であるということである。そしてそのことを本研究によって示唆できたのではないかと思っている。
 以上が2009年度の特定課題の研究成果である。