表題番号:2009A-914 日付:2012/11/06
研究課題障害者の人権と精神科医療におけるソーシャルワーク実践に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 准教授 岩崎 香
研究成果概要
精神科医療システムにおける人権問題は多々あるが、本人の同意が得られてない人の入院(医療保護入院)をサポートするシステムがないことは長年の課題とされてきた。近年、特に家族機能が低下している都市部で、本人の同意のない入院に民間移送業者がかかわるケースが増えている。そこで、2009(平成21)年10月~11月にかけて、都内の精神科医療機関に勤務する201名のソーシャルワーカーを対象に、民間移送業者の利用に関する質問紙調査を実施した。有効回答数は69、回収率は34.3%であった。回答者の85%が精神科単科の病院に所属し、300床から600床の大規模病院が約半数を占めた。また、2009年12月には、都内の民間救急サービス、警備サービスを実施している事業所272事業所に対する、精神障害者の移送に関する質問紙調査を実施した。こちらの回答は55社からあり、回収率は20.2%であった。
ソーシャルワーカーを対象とした調査の結果、民間移送業者による入院を受けたことがあるという回答は全体の86%に及び、41%のワーカーが民間移送業者を紹介していると回答している。紹介していない56.5%のワーカーは人権への配慮を指摘していた。また、業者を積極的に活用するという回答は10%で、他にサービスがないことが挙げられていた。本人の同意が得られない入院への意見としては、52.2%が「現行法で認められており、本人をまもるためにも必要」という意見であり、36.2%が「現状ではやむを得ない」という回答であった。
 民間移送業者に対する調査では、回答した55社のうち、29社(52.7%)が精神障害者の移送を実施していると回答している。その病名として最も多いのは老人性精神病や認知症で、約4割を占め、統合失調症が約3割で次いで数が多かった。これまでも精神科に受診歴のある人が8割程度で、年代としては、40歳から60歳代の人が約4割を占めていた。依頼主は約5割が家族で、3割が行政機関であった。暴言や医療拒否があり、家族だけで入院説得ができない場合に利用している人が多いのである。また、回答した民間移送業者のうち、職員に研修を実施している事業者は約4割であった。
 公的なシステムが十分に機能していない中で、民間移送業者が精神科への入院にかかわることはともすれば人権侵害に結びつく場合がある。医療保護入院という強制入院において人権をどう保障するのか、そのためのシステム構築の必要性が導き出された。