表題番号:2009A-856 日付:2010/04/11
研究課題多体系の非線形ダイナミクスから生じる集団運動の理解と応用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 専任講師 柳尾 朋洋
研究成果概要
本研究の目的は、非線形力学および幾何学の手法を応用することで、原子・分子集合体のミクロスケールな運動から、天体・宇宙探査機のようなマクロスケールの運動までを「多体系の集団運動」という普遍的な観点から理解し、工学的に応用することにある。特に、ミクロとマクロ、および速い運動と遅い運動というスケール間の相互作用に注目し、多重スケールを有する複雑システムの集団運動の統一的な理解と制御を目指してきた。
 本年度はまず、原子・分子スケールの興味深い現象として、オゾン分子の解離反応、アルゴンクラスターの構造異性化運動、水クラスターの構造変化運動を取りあげた。これらの現象は、どれも分子内の多くの自由度が協同的に関与することによって発生する集団運動である。このような集団運動の動的な機構を明らかにするために、我々は、近年開発した超球モード解析という多体系の振動回転運動の解析法を上述の系に応用した。その結果、上述の系において集団運動が発生する際には,系の内部モード間で特定のエネルギーの受け渡しが生じることが明らかになった。さらに、これらのエネルギーの受け渡しのパターンを解析することで、集団運動に直接的に関与する集団モードと、集団モードにエネルギーを注入する役割を果たす駆動モードが存在することが分かった。現在は、これらの集団モードと駆動モードを用いることで原子分子系の集団運動をコントロールする方法論を開発中である。また、この方法論を宇宙探査機の軌道計算へと応用する研究も開始している。
 本研究ではまた、ナノメートルからマイクロメートルのスケールに渡る興味深い階層性システムとして真核生物のDNAを取り上げ、その折り畳みの機構の一端を探る研究を行った。まず右巻き2重らせん構造をもつDNAを弾性体のネットワークとしてモデル化し、その基本的な弾性特性を探った。その結果、DNAの曲げと捩れのカップリングの機構が明らかになり、DNAが折り畳み構造をとる際に右巻きと左巻きの間のカイラル対称性が破れる仕組みを明らかにした。