表題番号:2009A-853 日付:2010/03/30
研究課題沿岸域の高潮・津波災害脆弱性の分析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 柴山 知也
研究成果概要
 アジア、アフリカの対象地域に対して既に筆者が構築した広範なネットワークを利用して、具体的な海外現地調査データの集積を行い、各地域の特性を把握し、その結果を基に総合的な防災、環境モニタリングのシステムを検討した。まず、2009年9月初旬に大隈小講堂において「アジアとアフリカにおける沿岸域の防災・環境・管理に関する研究集会」を開催し、ベトナム、インドネシア、タイ、スリランカ、タンザニア、イギリス、日本、カナダなど各国の研究者が沿岸域の防災、環境、マネジメントなどに関するそれぞれの国での最新の研究状況、研究成果について発表した。参加者は途上国や欧米の大学で教鞭をとる研究者たちで、本研究集会の成果により新しい沿岸域研究プロジェクトを開始することを決定した。
 また、2009年9月中旬には、上記の研究集会参加所の協力を得て、ベトナムでの現地調査を実施した。その結果、環境変動に伴う高潮・高波被害の変化、高潮・高波対策、および土壌の浸食対策については、海外調査の結果による情報を解析し、環境変動あるいは流域内の浸食量を推定する方法をシステム化するための資料を得た。
 一方、2009年9月29日に発生したサモア諸島沖地震津波により,サモア独立国と米領サモアの沿岸部は大きな被害を受けた.本研究では,現地調査と数値計算を実施することにより両国での津波被災の特徴を明らかにした。地震発生から約1カ月後の2009年10月28日から11月1日にかけて,サモア独立国・ウポル島および米領サモア・トゥトゥイラ島の2島において津波痕跡高の測量と被災住民への聞き取り調査を実施した.サモア諸島沿岸には地震発生後20分程度で第一波が襲来し,高さは最大で9m に及び,広い範囲で甚大な被害をもたらした.サモア諸島は島を取り囲むサンゴ礁のリーフの幅が広く,これらのリーフ上で波が砕けながら進んでくる様子がはっきりと見え,沿岸部の住民はいち早く危険に気付き逃げることができた.いくつかの村では津波の挙動を教える教育を実施しており,津波の危険を感じたら安全な場所へ避難するという意識が住民の中に備わっていた.サモア社会の特徴として地域社会の構造が極めて強固であり,酋長であるマタイの権限が強いことが挙げられる.住み慣れた沿岸の居住地を離れ高地への移転を決断した村では,このマタイのリーダーシップというサモア社会の特徴がうまく機能していたと考えられる.