表題番号:2009A-848 日付:2010/04/20
研究課題非営利組織における管理会計の意義と可能性に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 助手 目時 壮浩
研究成果概要
 その主たる貢献領域を営利組織たる企業としてきた管理会計であるが,近年では,自治体・政府組織などの非営利組織のマネジメントに対する貢献をも期待されるようになっている。バブル崩壊後の90年代後半以降,自治体や政府の抱える財政赤字問題や非効率なマネジメントに対する批判はますます高まりを見せているが,当該問題の解決の一翼を担うものとして,管理会計が注目されるようになった。これをうけて,多くの研究者によって自治体・政府組織などの非営利組織を対象としたABC(Activity-Based Costing)やBSC(Balanced Scorecard)に関する事例研究や導入研究が示されるに至ったのである(たとえば,Brimson and Antos(1994); Kaplan and Norton(1996, 2001); 櫻井(2003); 櫻井=大西(2003); 石原(2004); 稲生(2004); 谷(2004)など)。
 たしかに,昨今の自治体財政の悪化を考えれば,営利組織におけるコスト・マネジメントにおいて多大な貢献を果たしてきた管理会計手法に大きな期待が寄せられていることは間違いないであろう。しかしながら,自治体の存在意義に鑑みれば,コストの削減と同等に,またはそれ以上に,住民の生活を支え利用者の満足に合致する公共サービスを提供することが求められる。なぜならば,公共サービスとは住民らが健全かつ円滑に市民生活を営むためのインフラを提供するものであり,コストがかかるからと言って切り捨てられる性質のものではないからである。しかしながら,既往の議論においては,住民らの便益を犠牲にすることなくいかにしてコストの削減を実現するか,いいかえれば住民らの便益とコストの削減との間に存在するトレード・オフをいかにして解消するかといった問題について,十分な議論が展開されているとはいい難い。
 そこで本研究では,自治体が提供する公共サービスにおいて,目標原価を制御基準として公共サービスに係るアウトカムの作り込みを行う大分県庁の取組みに注目した。具体的には,大分県庁をリサーチサイトとして実施したフィールドリサーチに基づき,目標原価の設定と当該目標原価を制御基準として展開されるアウトカムの作りこみに係る一連のプロセスを明らかにすることを通じて,公共サービスにおける目標原価管理の意義と今後の研究課題を明らかにした。