表題番号:2009A-840 日付:2010/04/07
研究課題殻体の酸素同位体比分析を用いたアンモナイト類の幼生生態の解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 助手 守屋 和佳
研究成果概要
本研究では,白亜紀の海洋中できわめて多様に反映していた頭足類の幼期の生態を明らかにするために,炭酸カルシウム殻体の酸素同位体比分析を行い,個体の成長に伴う生息水深の変化を議論した.本研究では当初,アンモナイト類を主な対象として研究を行うことを予定していたが,きわめて保存良好でこれまでの産出報告例も少ないオウムガイ類の殻体を用いることが可能になったことから,主としてこのオウムガイ類の殻体分析を行った.
分析には,アメリカ・テネシー州・マクネアリー郡に分布する白亜系カンパニアン階~マーストリヒチアン階(Repley Formation)から産出した,現生のオウムガイ類と同じオウムガイ科(Nautilidae)に属する,Eutrephoceras dekayiのきわめて保存良好な個体を用いた.試料を採取した地点は,白亜紀のWestern Interior Basinの一部に相当し,大陸海上の浅海域であったと考えられる.分析に用いた個体は,直径約5 cmの若年期の個体である.測定には真珠層のみを用い,炭酸塩試料は成長後期(adoral)から成長初期(adapical)に向けて,マイクロドリル(直径300 μm)を用いて約1 mm間隔で切削した.また,分析に用いた標本と同時に産出した浮遊性有孔虫Rugoglobigerina rugosaについても酸素同位体比分析をおこなった.
浮遊性有孔虫の酸素同位体比分析から算出された古海水温は,約28 ℃であった.E. dekayiの酸素同位体比分析から得られた殻体形成水温は,およそ16 ℃で,分析した区間を通じてほぼ一定であった.本研究で明らかになったE. dekayiの殻体形成水温が約16 ℃で,浮遊性有孔虫から得られた当時の海洋の表層付近の海水温が約28 ℃であったことを考慮すると,E. dekayiはほぼ海底付近に生息していたと考えることができる.