表題番号:2009A-832 日付:2010/04/06
研究課題うつ病患者の職場復帰可能性の客観的評価に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 准教授 堀 正士
研究成果概要
 今回の研究は短期間であったこともあり、対象となった患者は1名のみであった。また、諸事情より治療開始直前のデータがとれず、やむを得ず治療中(抑うつ状態)と寛解状態に至った時のデータのみを比較することとなった。また、研究計画では抑うつ度の評価をHAM-Dにて行うとしたが、これも諸般の事情でSDS(Zung自記式抑うつスケール)に変更した。
 対象症例において、抑うつ状態であった測定時点と臨床症状が寛解に至った測定時点の間隔は約9ヶ月であった。この間、抑うつ度を示すSDSは49点から38点と大幅に減少しほぼ正常域に達しており、臨床症状を裏付ける結果であった。しかし、SASS(職場復帰準備性評価シート)の点数は32点から34点とほとんど変化がなかった(ちなみにこれは職場復帰準備性としてはあまり高得点とは言えない)。すなわち、抑うつ状態が寛解に達しても職場復帰に関しては自信があるとは言えない状況であった。これは症例が1年以上という長きにわたり休業を続けているためであると考えられた。また、CogHealthの測定結果は、むしろ寛解状態において遅延再生タスクの反応速度が遅くなっていることが明らかとなった。以前別の症例でも臨床症状改善に相反して注意分散タスクの反応速度が落ちている例を経験している。その症例の経過も考慮すると、反応速度の低下はおそらく9ヶ月間の間に投与され増量された薬剤の影響が強いのではと考えられた。対象症例では比較的副作用の少ないとされるセロトニン再取り込み阻害剤(SSRI)が奏効せず、副作用が多い古典的な三環系抗うつ薬や気分安定薬を投与せざるを得ず、これが反応速度に影響を与えたのではないかと推察された。しかし、薬物療法開始直前や薬剤を中止した段階でのデータがとれていないため、確証は得られなかった。反応速度の低下は当然職務遂行能力を低下させるので、もし仮に薬剤の影響が明らかとなれば、従来の指導方針(服薬しながらの職場復帰)を見直す必要があるかもしれない。