表題番号:2009A-824 日付:2010/04/08
研究課題近代日本の民主化と政治暴力に関する実証的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 助手 藤野 裕子
研究成果概要
研究計画にしたがい、①大隈重信暗殺未遂事件(1916年)、②政友会本部放火事件(1919年)、③加藤高明暗殺未遂事件(1925年)の三事件について、以下の調査・分析を行った。
まず、基礎作業として、三事件の裁判記録(東京弁護士会・第二東京弁護士会合同図書館所蔵)について、原史料の再整理・確認を行ったうえで、精読した。
ついで、①については、被告人の一人鬼倉重次郎の上申書(早稲田大学図書館所蔵)の収集・分析を行った。これにより、従来の研究では同事件の主犯を、民衆騒擾を先導した経歴をもつ福田和五郎と見なしてきたが、実際には鬼倉重次郎などより若い世代の政治青年が、福田らの世代が行ってきた民衆騒擾とは異なる政治実践を模索し、自律的にテロリズムを選択したことが判明した。
②については、被告人河本惠治について、出身村の自治体史などをあたることで出自を確認した。このため、出身村での調査を取り止め、上京後の足跡に調査の重点を置くこととし、特に河本が上京してから参加した東京の米騒動(1918年)の実態を明らかにすべく、裁判資料(京都大学人文科学研究所図書室所蔵)の筆写・分析を行った。この結果、同事件は、米騒動後の労働運動の隆盛に刺激を受けた河本が、米騒動の再発を目して行った事件であることが明らかとなった。
③については、実行犯である尾道鷹一が黒龍会員かつ土木建築請負業であったことから、土木建築と同会に関する資料を収集・分析した。この結果、a) 土木建築請負業は都市の下層社会を基盤に成り立っており、社会の周縁的存在であるがゆえに、政党や右翼団体と結びつきをもつこと、b) 黒龍会は、純正普選運動(普選反対運動)を進める際、会員に民衆騒擾などの過激な行動が起きないように徹底したため、業を煮やした一部の青年会員らがテロリズムを企図したこと、などが明らかとなった。
以上から、近代日本の民衆騒擾とテロリズムの関係性は、これまでの研究が提示するような「民衆騒擾=デモクラシー、テロリズム=反デモクラシー」という図式というよりも、表出の仕方が異なるが同一線上にある政治実践であると考えられる。今後はこの点についてより詳細かつ包括的な論証が課題となる。