表題番号:2009A-808 日付:2010/04/10
研究課題日本語動詞活用の包括的モデルの構築
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 専任講師 乙黒 亮
研究成果概要
本研究課題は,日本語動詞の包括的な活用モデルを構築することを目的とし,
とりわけモダリティ表現の形態・統語的特性の解明,有限状態トランスデュー
サーによる形態解析に応用可能な形での形式化を具体的な目標として設定した.

形態論的な研究としては,Moodの活用素性を[+cond, +conj, +desid, +hort,
...]のように設定し,その他の活用素性と並列的に扱う提案を行った.さらに
近年Word-and-Paradigmモデルで新たな展開を見せている活用形の推論的関係を
アナロジーを基本として記述することを試みた.この形式化は目標として挙げ
た有限状態トランスデューサーでの形態解析との親和性が高く,今後の研究課
題として解析モデルの構築を行う予定である.またアナロジーによる推論的関
係は表層的な語形によって定義されるものであり,その点においてJoan Bybee
の提唱する表層的な語形に基づく活用形のモデルを応用して,語形間の関係を
ネットワークとして関連付けることができることを示した.これらの論点を研
究会などを通して他の研究者からの意見も参考にをまとめたものを論文として
発表した(業績を参照).ネットワークモデルは各語形のネットワーク内での
関連性の強さを表すことができ,コーパスに基づく統計的なデータを利用する
ことで,より心理的実在性の高いレキシコンのモデルを提供することができる.
今後この研究を発展させ,より完成度の高い研究成果を公表するよう試みたい.

またモダリティの統語論的な研究として,近年「文構造の階層性」という観点
から生成文法,機能文法,Role and Reference Grammarなどの理論的枠組で盛
んに進められている.本研究課題ではこれらの先行研究をまとめ,上述の形態
論的研究をベースにとりわけ所謂真性モーダルと擬似モーダルの統語的特性の
違いについて語彙機能文法の枠組みでの考察を試みた.この研究はまだ現在進
行中であるが,その途中段階において,日本語のみならず広範な言語を研究対
象に含め類型論的な視点からも議論を展開していく目標を設定し,科学研究費
補助金への申請を行った.類型論的にも理論的にも意義のある研究であり,複
数年の計画で今後も進めていきたい.