表題番号:2009A-801 日付:2014/04/08
研究課題集権と分権の政治経済学
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 教授 小西 秀樹
研究成果概要
 本研究では,政策担当者が退任後の就職先や報酬を目当てにして政策運営に努力するキャリア・コンサーンズ型の政策形成と,異なる地域での政策成果を比較することで得られる政策担当者のパフォーマンスの情報が政策担当者の能力の評価に影響するヤードスティック競争に焦点を当て,政府の集権化・分権化を巡る政治経済学的な分析を行った.従来の研究では,住民の居住地選択以外に地方政府間での競争を分析する枠組みがなかったが,本研究では,政策の成果に関する情報が他地域にも伝わることが政策担当者間での競争を生み出す源泉になることを明らかにしており,その結果として,ヤードスティック競争の作用する地方分権の方が一般には中央集権よりも各地域の政策担当者に努力誘因を与えることが示された.とはいえ,努力水準は社会的に見て課題になるケースもあり得る.
 本研究では,従来の研究では考察されていなかった,次の点を明らかにすることができた.第1に,政策担当者の能力が退任後民間部門でどのように評価されるかによって,集権と分権の相対的な望ましさが影響を受けるということ,第2に,政策運営の努力が地域間の外部効果を持つとき,それが正の外部効果か負の外部効果かによって,集権と分権の相対的な望ましさは違ってくるということ,第3に,集権と分権の中間的な形態である部分統合が最適な統治形態になるケースが生じること,第4に,中央政府と地方政府が共存するような形態が最適な統治形態になるための条件を2つの効果のトレードオフ関係として明らかにしたこと,である.最後の点について具体的には,部分的な地方分権によって「焦点」効果が作用して,政策担当者に政策運営の努力水準を引き上げる誘因が作り出されるが,同時に,「ノイズ拡大」効果が生じパフォーマンスの相対評価が低下するため,政策運営の努力水準を引き下げる誘因がもたらされる.部分的な分権化が,完全な集権化あるいは分権化よりが望ましいかどうかは,2つの効果の相対的な大きさに依存して決まってくる.本研究で得られた成果は英文論文にまとめられ,オーストラリア-アジア公共選択学会およびアーバイン・日本公共政策コンファレンスの国際学会,国際コンファレンスで報告された.また,来年度のヨーロッパ公共選択学会および春季日本経済学会でも報告することが決まっている.