表題番号:2009A-502 日付:2011/03/24
研究課題従業員参加型コーポレート・ガバナンスの決定要因と企業の行動・業績に与える影響
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 准教授 久保 克行
研究成果概要
 この研究では、従業員がどのように企業のコーポレート・ガバナンスに影響を与えるのか、また、従業員の影響力の強い企業の行動が他の企業と比較してどのように異なるのかを分析した。
 経営者が従業員の利害を重視するためには、従業員からの意思を表明するためのメカニズムが必要である。特に重要なのは、労働組合と労使協議制である。労働組合は言うまでもなく労働者と経営者の間の重要なコミュニケーションのツールである。しかし、従業員が企業経営に対して意見を表明するのは、労働組合だけではない。こういったメカニズムとしては、労使協議制などが代表である。労働組合が行う団体交渉では、賃金や労働時間などの労働条件が主な交渉事項となるが、労使協議制は、さまざまなトピックをカバーすることが特徴である。
 そこで、労使協議制や労働組合が企業の人事政策に与える影響を分析した。従業員の意思が経営に反映されるような仕組みを持っている企業では、雇用を守り、従業員の処遇を向上させる可能性がある。たとえば、この考え方によれば従業員の発言力が強い企業では長期雇用が普及していると考えることができる。
 分析の結果は以下のとおりであった。雇用施策について言うと、使協議制度がある企業では、長期雇用を維持する傾向が強い。しかし一方で、非正規雇用を活用しようという意欲は高く、また正規従業員を非正規従業員で置き換えようとしている。ただし、非正規従業員比率は低い。これらのことは、正社員の長期雇用を維持することを第一の目的としているのではないかと考えることができる。非正規社員を増大させることは正社員の利害を阻害するようにも考えられる。しかし、非正規社員が多い企業では業績悪化の際に非正規社員を解雇することで正社員の雇用を守ることができる。これらの結果は、従業員が企業の雇用政策に大きな影響を与えていることを示している。