表題番号:2009A-062 日付:2012/03/05
研究課題高密度電荷分離・輸送ポリマーの創製
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 准教授 小柳津 研一
研究成果概要
レドックス活性なポリマー膜への電荷注入は、濃度勾配に基づく拡散による電荷輸送と、電荷補償する対イオンの注入・放出を伴う。膜内輸送現象の包括的な制御により、固体膜本来のレドックス活性を引き出すことが、界面での電荷分離とバルク相への輸送を可能とするための課題となっている。本研究は、レドックス席を高密度で含有するポリマーのメソスコピックレベルの超構造構築とその分子レベルでの精密制御を手段とする輸送現象の全容解明により、斬新なエネルギー変換・貯蔵材料としての具体化を目指している。ポリマー膜の電荷輸送性を向上させるには、対イオンの構造制御や膨潤性の調節によりその拡散性を高めると同時に、レドックス席当りの当重量を抑え、レドックス席間の二次反応である自己電子交換を速くする必要がある。この指針に沿って、ニトロキシラジカル/オキソアンモニウムカチオンのレドックス対が、安定な高速レドックス応答を示すと共に当重量を極限まで小さくできることを明らかにした。以下に具体的に述べる。
(1) ニトロキシラジカルポリマーをはじめとするレドックスポリマー内の輸送現象を解明した。有限厚み層への電荷注入、拡散による電荷輸送、低振動数域での電荷飽和 (レドックスキャパシタンスの発生) を解析し、構造や基礎物性との相関を明らかにした。(2) イオン種の溶媒和半径、ポリマー/溶液界面における (脱) 溶媒和とDonnan平衡に関する検討から迅速応答する電荷補償イオン種を選定し、電荷輸送の見かけの拡散定数を用いて移動度を定量的に把握した。(3) 有機レドックス席を高密度に導入したポリマーを合成し、溶媒和状態の制御によりイオン輸送チャンネルを形成できることを見出した。これを元に、ポリマー膜への電荷注入が対イオンによる電荷補償に律速されず、あたかも溶存レドックス種のように応答する物質系として確立した。(4) 膜内レドックス席の高密度化と自己電子交換の高速化により輸送性が顕著に向上することを実証した。