表題番号:2009A-057 日付:2010/04/10
研究課題ラマン分光による有機薄膜の相転移に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 古川 行夫
研究成果概要
有機化合物のラマンスペクトルのバンド波数の温度依存性を測定すると,ガラス転移や相転移,結晶化などに伴って,波数やバンド幅,温度に対する変化率が変化する.本研究では,波数標準であるネオンの発光線をラマンスペクトルと同時測定することにより,スペクトル波数の精密測定を行い,有機超薄膜の熱的性質とラマンスペクトルの関係を明らかにすることを目的とした.有機EL(有機発光ダイオード)の材料であるN,N'-di-1-naphthaleyl-N,N'-biphenyl-4,4'-diamine (NPD),4,4'-N,N'-dicarbazolebiphenyl (CBP),銅フタロシアニン薄膜(膜厚は100 nm以下)のラマンスペクトル(励起光波長,532と633 nm)の温度依存性を,顕微ラマン分光計(レニショー社)を用いて,室温から200℃まで測定した.加熱には顕微鏡用加熱ステージ(リンカム社)を使用した.真空蒸着法により作成したアモルファス状態の薄膜は,加熱すると結晶化する.この結晶化に伴い,ラマンバンドの高波数シフトとバンド幅の変化が観測された.変化量はラマンバンドにより異なった.また,ガラス転移温度では,波数の温度に対する変化率が異なっている可能性がある.温度変化が大きく現れるラマンバンドは,どのような振動モードであるか明らかにすることは今後の課題である.有機薄膜では物質量が少ないため,通常の熱測定を行うことは難しいが,ラマンスペクトルは,有機薄膜の熱的性質を測定する実験手段となり得ることがわかった.