表題番号:2009A-047 日付:2010/03/31
研究課題開発途上国で利用可能な環境汚染履歴解明システムの構築と住民健康被害予測式の導出
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 香村 一夫
研究成果概要
1.研究の全体構想
 おもに産業革命以後の環境汚染に着目し、地球表層堆積物中に捕りこまれた人為起源の降下物質(重金属・炭化粒子・全硫黄、等)を指標として、それらの濃度分析による、地域汚染史の解明と手法確立をめざしている。その基礎データを得る目的で、過去に大気汚染の激甚であった三重県四日市地域と千葉県京葉臨海地域を研究フィールドとした。そして、それらのバックグランドに分布する表層土壌の分析結果から汚染度のゾーニングマップを作成するとともに、フィールド内にあるため池の底質柱状コアの分析結果から時系列的な汚染トレンドを解明することを試みる。さらに本研究成果と過去に確認された大気汚染による住民健康被害データの相関を検討する。最終的には、本方法の有効性や精度を検証したうえで、土壌(おもに底質)中の人為起源降下物質濃度と健康被害との関係式を導出する。
 研究目的達成後は、近年激しい大気汚染を呈しているがモニタリング環境が乏しい中国・ベトナムをはじめとした東アジア地域や東欧地域の大気汚染の実態について時系列的な解明を試みたい。そして本研究から導いた関係式を用いて対象地域の住民健康に対するリスクを推定し、被害を未然に防止するための基礎データを提供することを究極の目標としている。
2.研究成果
 四日市地域内7つのため池で底質柱状コアを採取し分析に供した。柱状コアの深度方向濃度トレンドの形状は、コンビナートからの方向と距離に影響されて、地域性を有する。とくに大気汚染による健康被害が顕著であった地域(既存資料より推定)にあるため池の底質では、深度約40cmに対比されるコア試料中のCu・Pb・Zn等の重金属濃度が最高値(100~300ppm)を示し、それらは濃度トレンドにおいてピークを呈している。球状炭化粒子(SCPs)および硫酸イオン濃度のトレンドにおいてもこの深度にピークが存在する。またコア試料中にとりこまれている同位体元素Cs-137の濃度トレンドから深度42cm付近は1960年前後であることが推定される。即ち、元素・粒子・イオンが示したそれぞれのピークは1960年代の大気汚染が最も激しかった時期を反映しているといえる。他のため池底質も同じプロセスで解析し、上記の目的を達成できるようなデータベースを作成していく。一方、コンビナート地域の後背地に分布する表層土壌を用いた各種分析による汚染度ゾーニングマップも作成中である。
 さらに、四日市地域と類似の研究を京葉臨海地域でも実施しており、タイトルに示したような事項の実用性の検証を行っている。