表題番号:2009A-045 日付:2010/03/31
研究課題膵β細胞におけるCdk5の役割の解明と糖尿治療への応用
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 大島 登志男
研究成果概要
我々は、Cdk5がL-typeカルシウムチャネルのリン酸化を介してインシュリン分泌を負に制御している事を報告し、Cdk5阻害剤の糖尿病治療薬への応用を示唆した(WeiらNat. Med 11, 1104, 2005)。2008年度の特定課題研究Aではbeta細胞特異的なCdk5抑制モデルマウスを作成し解析した。予想に反し、beta細胞特異的なCdk5抑制マウスは生後にbeta細胞の減少を示し、6週齢で糖尿病状態を示した。この事は、Cdk5がbeta細胞の生存に不可欠である事を示唆しているが、Cdk5活性の低下が、生存そのものに必須なのか、増殖・分化に必須なのか、不明である。Cdk5阻害剤の糖尿病治療薬としての応用を考えた場合には、Cdk5のbeta細胞への作用は、明確にする必要があり、以下の実験を行なった。
1) beta細胞特異的なCdk5抑制モデルマウスのbata細胞の細胞死について、TUNEL染色で検討。
2) beta細胞特異的なCdk5抑制モデルマウスのbeta細胞の増殖について、BrdUのラベルやKi67などの増殖細胞のマーカーで検討。
3) beta細胞特異的なCdk5抑制モデルマウスとアポトーシスシグナル構成因子のBax欠損マウスを交配し、beta細胞の数を週齢ごとに、Tg;Bax+/+、 Tg;Bax-/-、 nonTg;Bax-/-の3群で比較。
<結果と考察>
1) beta細胞特異的なCdk5抑制モデルマウスにおいて、beta細胞が減少する原因を検討するため、TUNEL染色を行なったが、Tgマウスにおいて、明確なTUNEL陽性細胞数の上昇はなかった。
2) 同様に、増殖細胞数に明らかな変化はなかった
3) Tg;Bax-/- vs Tg;Bax+/+間で明確なbeta細胞が減少に差はなかった。すなわち、明確なrescueは得られなかった。
Tg作成より、5-7世代目の解析となり、Tgの発現レベルが低下していた。このため、Tg単独でのbeta細胞の減少程度が軽度となり、細胞死、細胞増殖低下などの評価が困難となった。このため、1)-3)で行なった検討で、明確な結果が得られなかった。Tgは世代が進むにつれてTg由来の遺伝子産物の発現レベルが低下するという問題点があり、今回の解析でも、明確な結論が得られなかった大きな要因となった。今後検討を進めるために、再度Tgを作成する方向も検討することとした。