表題番号:2009A-044
日付:2012/11/09
研究課題大気中フミン様物質の計測・動態・起源・大気環境影響評価に関する研究
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
---|---|---|---|
(代表者) | 理工学術院 | 教授 | 大河内 博 |
- 研究成果概要
- 大気エアロゾルや雲・霧水中にフミン物質と類似した構造と特性を有する高分子有機物,すなわち,フミン様物質(HULIS)の存在が確認され,その起源と大気圏動態が注目されている.大気中フミン様物質は,エアロゾルの吸湿特性,界面活性特性,光学特性の変化を引き起こし,雲粒形成過程(雲粒の生成・蒸発速度,雲粒粒径分布)や疎水性有機化合物の大気水相への促進吸収などに関与することが指摘されている.しかし,エアロゾル粒子中フミン様物質の同定には至らず,その起源やエアロゾルの光学特性,吸湿特性に及ぼす影響については未解明のままであった.本研究では,以下の4点を目的に研究を行った.
1)大気中フミン様物質の計測手法の開発
2)大気中フミン様物質のキャラクタリゼーション
3)大気中フミン様物質の起源および動態解析
4)大気中フミン様物質の大気環境影響評価
2009年7月17日~8月25日まで夏季集中観測を行った.観測地点は,富士山頂(富士山測候所,3776 m),富士山南東麓(太郎坊,1300 m),早稲田大学西早稲田キャンパスである.観測項目は,エアロゾル化学特性(水溶性主要無機成分,水溶性有機物(WSOC),HULIS,PAHs),エアロゾル生物特性(細菌株の同定と細菌数,),ガス状物質(VOCs,酸性ガス,アンモニア),霧水・雨水・露水中化学成分(主要無機成分,溶存有機炭素(DOC),HULIS,VOCs)である.大気中フミン様物質の測定には,水圏フミン物質の分析手法であるHiraide et al. (1994)の方法を改良したDEAE-XAD-UV法を用いた.
2009年7月は梅雨明けが遅く,天候不順であったことから,富士山頂では観測期間中に54試料の雲水が得られた.雲水中フミン様物質(HULIS)濃度は日中に高く,夜間低いという明瞭な日変動を示した.富士山頂の雲水では,富士山南東麓で同時期に得られた霧水,雨水,大気エアロゾル中 HULISに比べて,フミン酸の割合が高い傾向にあるが,日中にはフルボ酸の割合が増加した.
HULISは界面活性能を有することが指摘されていることから,単位無機イオン濃度あたりのHULIS濃度,すなわち,HULIS濃度と主要無機イオン濃度(total ion concentration, TIC)との比(以下,HULIS/TIC比)が,大気中VOCsの雲水への促進吸収過程に及ぼす影響について検討した.その結果,雲水中のHULIS/TIC比が高いほど,雲水中VOCsの濃縮係数(定義:(降水中VOCsの実測値)/(降水中VOCsのヘンリー則からの予想値))が増加することが分かった.
本研究により,自由対流圏高度における雲水中HULISの濃度変動,フミン酸とフルボ酸の割合,さらに雲水中HULIS濃度が高いほど気相VOCsを効率的に取り込むことが明らかになった.