表題番号:2009A-041 日付:2010/04/10
研究課題アミド架橋白金(Ⅱ)二核錯体の異性化反応機構の解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 教授 石原 浩二
研究成果概要
 α-ピリドンを架橋配位子とするHH型エチレンジアミン白金(II)二核錯体([Pt2(en)2(m-α-pyridonato)2]2+)は、中性の水溶液中でHT型錯体に分子内反応機構で異性化することが知られている。この異性化反応に対しは、すでに反応機構が提案されているが、その機構は化学的妥当性が低く、極めて不完全であったため、我々はこの錯体について詳細な反応機構の研究を行った。我々はこれまで、この錯体は中性水溶液中ではHT型に異性化するのみであるが、pHが下がるにつれ、単核錯体への分解反応も同時に進行し、強酸性水溶液中では分解反応のみが起こることを確認した。そして、異性化反応と分解反応の両方の反応機構を合理的に説明できる反応機構を提案するために、様々なpH条件で反応に伴う1H NMRスペクトルの時間変化の測定を行ってきたが、その過程で反応中間体と考えられる化学種の検出に成功した。今回、検出された中間体が、我々が提案している反応機構中のどの化学種に相当するのかを特定するために、様々な条件において追加実験を行った。その結果、中間体を特定することができ、異性化反応および分解反応は、次のように進行することが明らかとなった。
 すなわち、HH型錯体1を水に溶かすと、1は、片方の架橋α-pyridonateの酸素配位原子が解離した中間体2を生成し、2は、HT型錯体1’中の片方の架橋α-pyridonateの酸素配位原子が解離した中間体2’への変換を経由してHT錯体1’に異性化する。HH型錯体1を強酸性水溶液に溶かすと、中間体2および2’中の解離したα-pyridonateの酸素配位原子へH+が定量的に付加し、それぞれ錯体3および3’を生成するため、錯体は単核錯体へ一方的に分解する。一方、弱酸性の水溶液中では、H+の付加が定量的でないため、異性化反応と分解反応が同時進行するが、pHを変えることにより2と3および2’と3’の存在比が変化したことから、NMRにより検出された化学種は中間体3および3’であると考えられる。このように、今回の追加実験により中間体を特定することができ、反応機構の妥当性を示す実験的証拠が得られた。