表題番号:2009A-028 日付:2012/10/23
研究課題C.L.R.ジェイムズにおけるカリブ海認識の形成と継承 -ディアスポラ研究の視点から
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 専任講師 浜 邦彦
研究成果概要
1.研究の目的
 本研究は,英語圏カリブ海を代表する知識人であり,哲学者=歴史家=政治活動家=文化批評家としての幅広い著作と活動で知られるC.L.R. ジェイムズ(Cyril Lionel Robert James, 1901-1989)の思想形成の過程を,かれの「カリビアン」としての背景や意識に焦点を合わせながら,故郷トリニダード,イングランド,アメリカ合衆国にまたがる「ディアスポラ知識人」の軌跡として解き明かそうとしたものである.
 ジェイムズの著作は数多く公刊されているが,新聞記事,パンフレット,講演録といった入手しづらいものも相当な点数にのぼる.それらのうち重要なものはAnna Grimshawをはじめとする研究者の手によって編集・刊行されており,ジェイムズの思想の全体像はかなりの程度そうした書籍によって見渡すことができるといえるだろうが,そこに含まれない「マイナー」で「プライベート」なエクリチュール(書簡,草稿,覚書など)の中に,ディアスポラ知識人の個人的な経験や感情,親密な人間関係などがうかがえるのではないかと考えた.師弟関係にあったエリック・ウィリアムズ(Eric Eustace Williams,1911-1981)との影響関係と確執の解明も,この目的に含まれる.

2.研究方法
 2009年9月2日から約2週間,西インド大学トリニダード校図書館のエリック・ウィリアムズ・メモリアル・コレクションを訪ね,ジェイムズ,ウィリアムズ両者の未整理(通し番号のみ)のファイルを中心に,文献調査を行った.調査時間が限られていたため,重要と思われる文書約40点をコピーし,残りは通し番号順に内容を要約したノートを作成した.同様に,アメリカ合衆国ニューヨーク市のショーンバーグ黒人文化研究センターで数日間,ジェイムズ文書のコレクションを閲覧した.

3.研究の成果
 以上によって得られたコピー文書,ノートの内容は,帰国後に他の公刊されている文献と対照しながら解読し,新たな知見を得ることができた.公刊された自伝に含まれなかった草稿(性的体験に関する章など),エリック・ウィリアムズに対する評価,トリニダード・トバゴ独立(1962)後に労農党書記長として出した声明,エジンバラの西インド人学生組織の前で語った西インド文学論,等の発見である.
 また,西インド大学およびショーンバーグ・センターのコレクションの概要を知ることができ,より長期の本格的な文献調査の準備が可能になった.