表題番号:2009A-006 日付:2011/11/08
研究課題第2次地方分権改革による国・自治体関係の変容に関する法学分析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 教授 田村 達久
研究成果概要
 地方分権改革推進委員会が改革方策の一連の勧告において一貫して追求してきたことは、「地方政府の確立」である。このためには、行政事務権限、税財政権限などの自治行政権の確立とともに、地方公共団体の条例制定権の拡充という自治立法権の確立が不可欠となる。本研究ではまさにこれらの改革課題の考察、研究を進めてきたところである。ここでは、最終的な総括には当然ながらなお時日を要するので、本研究における重要な柱の1つとしてきた「条例制定権の保障のあり方」に係る報告を記載する。
 「義務付け・枠付けの見直しと条例制定権の拡大」に関する改革方策が、第2次勧告(平成20年12月8日)および第3次勧告(平成21年10月7日)の2度にわたって勧告されてきた。とりわけ、第2次勧告では、義務付け・枠付けの対象範囲が整理され、その存置を許容する場合等のメルクマール(判断基準)が設定されたうえで、条例制定権の拡大を図る方向で見直しが提言された。問題は、その提言内容が条例制定権の拡充に真に資するものであるか、である。試みに、地域ごとでの対応が決定的な意味を持つ環境行政分野の法律、具体的には、いわゆる典型7公害の規制に係る法律で検証したところ、必ずしも首肯できる結果は得られなかった。すなわち、法律それ自体によって行われている義務付け・枠付けのうち、法律による直接的なそれらの廃止等が勧告されているものは、規制基準の適用区域の明確化(大防法4②、水濁法3④)、地域・区域の指定(水濁法14の7①、土対法5①・③、騒規法3①、振規法3①、悪防法3)、計画策定(大防法5の2①、水濁法4の3①・14の8①)、各種の公告、公示、公表(大防法5の2⑦・5の3④・15⑤・24、水濁法4の3⑤・4の5④・14の8⑥・16④・17条、土対法5②、騒規法3②・19、振規法3③、悪防法6)、公害の測定(大防法20、水濁法16④、騒規法21の2、振規法19、悪防法11)などである。これらの事項を仮に条例で定めるとすることにより条例制定権の拡充を図ることが、「地方政府の確立」に大きく資するものであるかは、たしかに、環境行政分野という一部の行政分野に係る考察結果ではあるとしても、にわかには肯定しえないであろう。したがって、地方分権改革推進委員会自身が認めているとおり、次のステップである「法定受託事務」における義務付け・枠付けの見直しや、行政立法(政省令)による義務付け・枠付けの見直しが不可欠である。これらの検討を経てはじめて目指すべき「地方政府の確立」の道程が明確になると考える。