表題番号:2008B-311
日付:2011/05/24
研究課題和泉式部日記における引用の諸相-本文論及び読解のための-
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 高等学院 | 教諭 | 松島 毅 |
- 研究成果概要
- 『和泉式部日記』(以下『日記』)における引用の諸相を課題としてこの1年間研究を行った。特に注意したのは、引用を典拠指摘にとどまるのではなく、文脈の中でどのような効果を期待して引用がなされているかということである。本研究によって得られた成果は多いが、そのいくつかを具体的に述べておくと、例えば、5月の記事に、「宮」の訪問時に「女」宅の門が開けられず、「宮」が仕方なく帰宅する羽目となる事件がある。その折に「真木の戸口」をキーワードとした贈答が展開するが、この場面は状況として不自然な面が見られ、多分に構成的な性格がうかがい得る。注目されるのは、先行する日記文学作品である『蜻蛉日記』にも類似の場面が存在していることであり、近年の研究によってこちらでもその場面の構成的な性格が指摘されているが、そうだとすれば、「男の来訪に対して門を開けない」という状況に対して、『蜻蛉日記』・『日記』がそれぞれの主題性に即した場面構成を行っている可能性が高いといえる。これは、直接的ではないが、『蜻蛉日記』から『日記』への文学史的関係を考える上で示唆的である。
また、5月と10月記事に「山の端の月」をめぐる贈答場面があるが、場面を精査すると、両場面には仏教的文脈が存在することが示唆されており、そう考えるとき、従来は不自然であるとして見逃されがちであったが、これらの記事・贈答は和泉式部の「暗きより暗き道にぞ入りぬべきはるかに照らせ山の端の月」を何らかの形で踏まえていることが想定される。
文献調査としては、2回の予定で申請したが諸般の事情により1回しか行うことができないため、当初目的としていた京大本ではなく、その系列に連なる大阪府立大蔵本に対象を変更して実施した。現在知られている京大本との関係など今後も検討を継続し、京大本についてはしかるべき時を得て、別に実施したい。